埃っぽいロッカーの中私は待ち続けた。

「トモエ、戻りましたよ」
「ツマラナイクン!」

勢いをつけて飛び出すと、

「雑巾の次は埃を付けて登場ですか」

頭に手を伸ばして埃を取ってくれた。

「ありがとう、凪斗は?」

一番の不安を尋ねれば「きちんと元の場所に帰しました」と少し意味のわからない返答。詳しく聞きたかったけれど とりあえず座りましょうとさえぎられてそのまま革張りの椅子にツマラナイクンと机を挟んで座った。

「他人に勘づかれてしまいましたか」

今までの口振りからしてツマラナイクンは存在を知られてはいけないらしい。

「もう、会えないの?」
「そんな顔しないでください…僕がトモエを迎えに行く場所を変えればいいだけです」
「え?」
「トモエの部屋まで行きます」
「んん?」

目を白黒させる私にツマラナイクンは丁寧に説明してくれた。

「あのですね。通気孔はこの学園全てに毛細血管のように張り巡らされているんです。それは寄宿舎も例外ではありません。つまり身体さえ通れば学園のどこにでも移動可能です。ですが、僕が普段使ってる通り道は先生方に教えてもらった赤外線のないルートなんです。他の場所は防犯上赤外線が張られていて特に寄宿舎は密集地帯です。しかし僕ならそんなツマラナイもの簡単に解除できます。トモエの部屋までのルートの赤外線を外せば自由に迎えに行けると言う訳です」
「すごいねー…ツマラナイクンは何の才能でここに入ったの?」
「全て」
「全て?」
「ええ、才能に愛された僕はどんな才能も思いのまま操れるんです」
「幸運も!?」
「はい」
「メカニックも!?」
「はい」
「じゃあ「トモエの役者の才能もあります」どうしてわかったの?」
「よく通る声、しっかりした体幹、細さの割に重い身体は鍛えられた筋肉のせいでしょう。総合して役者だと思ったんです。今の分析は探偵の能力です」
「…私、重かった?」
「細さの割に、です。気にしない方がいい。むしろもう少し脂肪をつけたらどうです?」

落とされた視線に気づいて私は慌てて腕を身体に回した。

「ち、小さいの気にしてるんだからやめてよ!」
「そうですか。すみません」

本当に悪いと思ってくれてるのだろうか。変わらない表情に、ツマラナイクンは無表情が普通なのかなと思った。いつか笑った顔を見てみたい。

「お詫びに僕が出来る事なら何でもしてあげますよ」
「本当に!?」

身を乗り出せば「ええ」と大きくうなづいてくれた。

「なら、音楽家の才能は?」
「もちろん」
「ツマラナイクンのピアノ聴きたい」
「任せてください。では音楽室に行きますよ」

ビリヤード台に乗り、天井の金網を外して登ると、ツマラナイクンはそこから手を伸ばした。

「行きましょうトモエ」
「うん!」

差し出された手を取って私も通気孔に引っ張り上げてもらう。



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