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トモエを迎えに通気孔を移動していると待ち合わせの娯楽室の前に男が立っていました。中の様子を伺っています。
(早速バレてるじゃないですか、トモエ)
背後に飛び降り振り返ったそいつを手刀で落としました。腕の中に倒れ込んだ細身を支えます。僕と身長は変わらないのに異常な程軽い。
(これ程気配を出さなければ気づかないなら僕のことを調べ回ってる奴ではありませんね)
緊張感がなさすぎますし。僕はその男を抱えながら娯楽室に入りました。
「トモエ、出て来なさい。迎えに来ましたよ」
「ツマラナイクン!」
ガタガタとロッカーの扉を揺らし中からトモエが出てきました。何故か頭に雑巾を乗せて。
「頭の雑巾を何とかしなさい。ところでこいつが誰だかわかりますか?」
「え!?凪斗!!!」
「静かに、まだ警備員はここを通り過ぎていません。気絶しているだけですから安心してください。トモエの知人ですか?」
そんな事聞かなくてもわかりましたけど。才能に愛された僕はトモエがこの男を見たとたん瞳孔を開いた事くらい気づけます。愛情を抱いてる人に対する反応です。……ツマラナイ。
「うん、幼馴染みで私と同じクラスだよ」
「そうですか。ここの生徒なのですね。では、僕は寄宿舎まで送ります。トモエはもうしばらくロッカーに隠れていなさい」
「凪斗悪い人じゃないよ!?」
「何を心配しているんです?ちゃんと送りますよ。僕の姿を見られた訳ではありませんので」
もう一度男を抱え直し、娯楽室を後にしました。
(ブルーラム?)
口から香る独特の匂いに眉を潜めます。あんなものを好き好んで飲む奴がいるとは。
(もしかすると)
僕は迷わずランドリーに行きました。
「思った通りです」
飲みかけのブルーラムが机にありました。こんな物を売っているのはここの自販機だけです。おそらくここでトモエを見かけて後をつけたのでしょう。
「好奇心は猫も殺しますよ凪斗」
簡易椅子に座らせ机に俯せます。目を覚ますまで数時間はかかるでしょう。今日見たことは夢だと思えばいい。
「…………………くそっ」
何故かこの男を殴り飛ばしたい“感情”が湧きましたが、僕はトモエの元に戻ることを優先しました。
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