誰にも否定させはしない

凪斗と巴は家族ぐるみの付き合いで、幼い頃から友達だった。だから“幼馴染み”なのだけれど。ずっと一緒だった2人は兄妹以上にお互いを愛し合っていた。本当に純粋なまでの愛情。だからこそ巴は凪斗の近しい人を巻き込む“幸運”に引きずり込まれてしまう。

凪斗の“幸運”の記憶の始まりは小学生まで遡る。当時巴は天才子役としてテレビドラマに引っ張りだこな有名子役だった。巴は撮影の帰り。凪斗は家族旅行の帰りとしてサンスクリトバル空港から飛行機に乗り込んだ。
そこから先はご存知の通り、ハイジャック犯が飛行機を占拠して、偶然降ってきた隕石にぶつかり死亡。凪斗の両親もその隕石のせいで凪斗の目の前で死亡。
でも“不運”はそれで終わりではなかった。機体は着陸体勢に入っていたから大きく破損することはなく、地上に戻って来た。しかし、隕石の激突で炎上し、その炎の中に巴は残されてしまう。防火マントも消火剤も持っていなかった巴は、恐怖に震える小さな身体を叱咤し決意する。炎の中を突っ切ろうと。幼いから、無知だから出た結論ではない。このままここに残れば凪斗にもう二度と会えない。自分を見捨てて先に逃げ出した両親よりも、凪斗に会えなくなる方がずっとずっと辛かった。それに自分が死んでしまったら凪斗は独りぼっちだ。
結果、巴は炎の中から無事生還出来た。美しく、華奢な両脚に一生消えない大火傷を負ってしまったが。

巴の女優の夢はそこで断たれた。巴を見捨てて先に逃げた両親は娘の価値がなくなったと判断すると今まで注いでいた愛情を嘘のように途切れさせた。でも、巴は辛くなんてなかった。凪斗がいたから。独りになった凪斗を支えなくちゃいけなかったから。凪斗も両親の死のかわりの自由と遺産を惜しみなく自分と巴に注いだ。と言っても可愛らしいものだったが。

「巴ちゃん巴ちゃん」
「なぁに?凪斗クン」
「はい、誕生日プレゼント」
「リボン?わぁ!嬉しい、ありがとう。凪斗クンつけて?」


「凪斗ったら、小さな手を必死に動かして結ってくれたの。結び目が頭の天辺より左にズレてしまっけど、自分で結えるようになった今でも左に傾けてるのは、すっごく気に入ったからでね!」


「大切にするね。凪斗大好き」


「小首を傾げて笑う姿に幼いボクは(巴ちゃんがこのプレゼントを一生外さないでくれたらなぁ)と願ったんだ」

願いはすぐに叶えられることとなる。

小さな不運 小さな幸運
大きな不運 大きな幸運
繰り返しながらも2人はずっと一緒だった。凪斗は死神と恐れられ、巴は死神狂いのキチガイと蔑まれても良かった。


「むしろそっちの方が都合が良かったんだ。私と凪斗の邪魔をする人がいないんだから。でもね、私は大好きで愛しい凪斗から逃げてしまった。あの事件のせいで」

狛枝と亜神田木は中学生に成長した。相も変わらず2人の周囲に人はいない。2人の世界に邪魔はいらない。それが徒となった。2人きりの所を凶悪な殺人犯に拉致されたのだ。“殺人犯”だけでも恐ろしいのに“凶悪な”とつくのはそれほどそいつが絶望的に終わってるから。そいつは“殺す”でなく、“生きたまま痛めつける”を目的としていた。拉致された2人のうち、先に選ばれたのは亜神田木だった。
これは狛枝にとって不運なのか幸運なのか。


「ボクは不運だったと思うね。だからこそ元予備学科があのヘアバンドを外せない理由ができたんだから」

元々逃げ出さないように鎖で繋がれた両脚にプラスして、その殺人犯は亜神田木の両手をナイフで地面に突き刺した。声にならない悲鳴を上げる亜神田木に狛枝は必死で叫んだ。

「いやだやだやだやだやだよごめんなさいごめんなさいボクなんでもするから巴ちゃんにひどいことしないでボクがボクなんでもボクが巴ちゃん巴ちゃん巴ちゃんなんでもするがらするからぁぁ」

そんな狛枝を嘲笑うようになおも殺人犯は続ける。手首を切り刻み、髪を燃やし、耳にナイフを当てて


「もういいわ。止めて頂戴」
「もういい。やめてくれ」

話を聞いていた全員の顔が青ざめていた。内容に…でもあるが、それらを語る本人の顔の異常な明るさに…いや、恍惚とした表情にだ。

「そう、ボクの幸運のせいであの元予備学科が傷つくならボクから突き放さなくちゃいけないんだよ!あの子がボクから離れることは不運でしかないけれどそれであの子が救われるならいい」
「あの後凪斗から一時だけだったとしても離れた事、とても後悔してる。だって親しい人が周りにいなくなったせいで凪斗自身に不運がやって来たんだから」
「病名告知があの子に言い渡されていたらと思うとゾッとするよ。“悪性リンパ腫のステージ3”と“前頭側頭型認知症”を併発なんてボクが幸運じゃなきゃ治らなかっただろうし」
「独りぼっちになってしまった凪斗は心を閉ざしてしまった。独善的な思想をよく立つ口を壁にして。忘れてしまったんだ。私には凪斗しかいないように、凪斗には私しかいないことを。たった一回の不運で。なんて最低なんだろう」
「でもね、あの子は言ったんだ。ボクからもう逃げないって。だからボクは安心してあの子を何度も突き放す。そうでもしなきゃボクの幸運であの子を傷付けてしまうから」
「だから私は凪斗に大好きを伝える続けるの。凪斗が私に愛を返さない理由を私はよく知ってるもん」




「「歪で歪んですれ違ってかわいそうでも
報われなくて愚かすぎて他人が理解できなくても
2人の愛の形なんだよ
誰にも否定させはしない」」








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やっと狂愛っぽくなりました。まだ入り口地点ですが。アニメとの齟齬は許してください。実は下書きはchapter6まで終わってるのですよ。機械音痴で打ち込むのが遅いせいで…。次章は期待の声の多いあの人が登場です。



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