他人が

「明日、予備学科からうちのクラスに超高校級の舞台役者として編入してくる生徒がいる。仲良くするように」

いっせいに湧く教室。

「先生、男子ですか?女子ですか?」

小泉さんのよく通る声が響いて賑やかだった教室が、しんと静まりかえる。

「あー、女子だ。名は亜神田木巴」
「女の子だって!やったぁ!」
「うっきゃー!役者って事は美人っすかねー?唯吹今から楽しみっす!」
「女子会のメンバーが増えますね。うふふ、早速歓迎会の段取りを考えなくては 」
「歓迎会?メシ!?メシか!?よぉーし、オレワクワクしてきたぜ!」
「うゅう…優しい人だといいですぅ…」
「は?罪木のゲロブタが人並みに扱ってもらえると思ってんの!?」
「西園寺、口が過ぎるぞ。そこまでにしておけ」

違和感なく喜ぶ 振りをしている絶望の
皆に感心する。男子の皆もどことなくそわそわしている。それなのに。真っ先に喜びそうな左右田クンがはしゃがなかったのを目の隅に捉える。彼は編入生の名前を聞くとすぐにボクの方を見た。気づいてないと思ってるの?ボクが希望の象徴と言われていた皆の挙動を見逃すはずないでしょ!?微動だにしないボクに何を思ったかはわからないけれど、ワンテンポ遅れて無理矢理作ったテンションでガッツポーズをした。

「よっしゃああぁ!女子だぜ!まっ、でもオレはソニアさん一筋ですけどね!」
「はぁ…どうも…」
「ソニアさーん、ちょっと冷たくないですかあぁ?」
「左右田よぉいい加減諦めろよ。見ていてこっちが虚しいぜ」
「うっせうっせ!」

呆れ顔の九頭竜クンにムキになって食ってかかった左右田クンはボクに話し掛けた。

「なー、編入生ってどんな女子だと思う?」

本当に左右田クンは演技が下手だね。笑っちゃうよ。

「さぁ?知らない 」
「つーかよ、1番食いつきそうなお前にしちゃ随分素っ気ない態度だな」

九頭竜クンの探る視線に笑顔で返す。

「そうかな?」
「ああ、お前の大好きな超高校級がやって来るんだぜ?いつもならきもちわりぃテンションで捲し上げるだろ?」
「予備学科は所詮予備学科だよ」

言い放って扉に向かって歩き出す。唖然とボクを見る皆の顔が面白い。ボク、そんなに変な事言ったかな?

ボクはあの子にここへ来て欲しくないし、 もう、君達のような絶望を愛することなんて出来ない。


扉を閉めようとした時に聞こえた西園寺さんの声に手を止める。

「そう言えば、亜神田木巴って女のこと聞いたことあるー」
「え、何何?どんなこと?」
「あのね、おねぇ。うちの家って舞踊中心だけど演劇関係のスポンサーとか評論家とも繋がりがあるんだー。それでとある舞台のオーディションで希望ヶ峰学園から1人、生徒の推薦があって希望ヶ峰の生徒なら才能は一流だろうってオーディションスルー出来たのがその女らしいよ。後で予備学科の生徒だと知って詐欺だって監督がぼやいてた」

頭の中でぐるぐると思考が混ざる。つまり、あの子の実力じゃない。おそらくは本科と予備学科の確執の緩和剤として利用されたんだ。

「ふっ、ふふふ、あはははははっ」

なんて可哀想で愚かで図々しいんだ。虫唾が走る。ボクの足は予備学科の敷地に向かっていた。





◇◆

「その話は本当なの?日寄子ちゃん」
「うん。でもー、実際オーディション必要なかったくらいそいつの実力はすごかったんだって。過去最高の逸材って評価も大袈裟じゃないらしいよ」



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