報われなくて

「亜神田木巴」
「はい」

2000人を超す生徒の視線を受けながら壇上に登る。

「あなたはたゆまぬ努力を続け才能を伸ばし、見事その才能を開花させたため希望ヶ峰学園本科への編入をここに認めます。」

拍手と共に薄っぺらい紙を受け取り礼をする。こんな紙に何の価値もない。私はただ利用されただけ。それも知らず拍手と羨望の眼差しを送る皆に罪悪感を感じる心の余裕はなかった。

私は明日から本科の生徒となるんだ。


◆◇


表彰式が終わり体育館から一斉に出ていく人の波に逆らいながら亜神田木を探す。

「亜神田木さん!本科編入おめでとう!」
「なあ、本科の先生にオレの話しといてくんね?」
「あ!ずりーぞ、オレもオレも!」
「ええっと…あの」

人に囲まれてオロオロしている亜神田木の腕を掴んで駆け出す。

「ひ、日向クン!?」

亜神田木の戸惑う声と他の奴らの非難の声を背中に辿り着いた体育館裏。石作りの階段に亜神田木の肩を押すようにして座らせ、上から見下ろす。

「日向クン?」
「俺の気持ちは変わってない」

ビクリと亜神田木の肩が跳ねた。

「ごめん」
「おいおい、話くらい聞いてくれよ」
「あ…ごめん」
「亜神田木の一途な所も…含めて…だからな。まあ、まずは本科編入おめでとう。これでナギトってやつに予備学科じゃなくてきっちり名前で呼んでもらえるな」


落ち込んだ顔がその言葉でいっきに輝いたのを見て落胆する。どんなに俺が元気づける言葉を放っても今の今まで“ナギト”に勝てなかった。

「もう、今までみたいに会えなくなるんだな。」
「そうだね」
「それをわかってて応援してきたからな…それで、俺の我儘を聞いてくれないか?」
「我儘?」
「あぁ、俺がこれからお前にすることに抵抗しないで欲しい」

肩を掴む手に力を込めると大袈裟なくらい亜神田木の身体が強張った。怯えた目で見上げる瞳に笑いかける。

「安心してくれ、この前みたいに口にキスはしない」
「でも…」
「俺の最後の我儘だ。」
「最後のって…今まで日向クン、私に我儘言ったことないのに…振り回して来たのは私のほうだもん。いいよ」
「言ったな」
「え?」

言質は取った。跪いて亜神田木の足を抑え、目を見開く彼女を見上げてにやりと笑った。




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