貴方
(どうしよう)
私は教室の扉の前でずっと迷っていた。
昨日 体育の授業中 日向クンにいきなりキスされて 思わず逃げてしまった。その後の授業も休み時間も後ろを振り向けなかった。自意識過剰かもしれないけどずっと視線がチクチクと刺さってる気がして 帰りのホームルームが終わると逃げるように教室を出て自分の寮に戻った。
実を言うと私は日向クンの気持ちに気づいてた。でも応えられなくて、関係を壊したくなくて気づかない振りをして聞こえていない振りをした。日向クンにあんな強硬手段を取らせるまで私は彼を追い詰めてしまっていたのか。
(どんな顔して日向クンに会えばいいのかわからないよ...)
でもここでずっと迷ってる訳にはいかない。意を決して扉を開けようと手を伸ばした時、
「亜神田木?」
日向クンが隣に立っていた。
「おおおおはよう日向クン今日は遅いんだね!!」
いつも私より先に来て「おはよう」と迎えてくれるから もう教室にいると思い込んでいたので驚いてしまった。
「あー...寝られなくて...」
逸らされた目の下には薄くクマができていて、
「何か悩み事?いつも相談乗ってもらってるし、私で良ければ聞くよ?」
「馬鹿!お前の事でだよ!」
「んん!?」
「『んん!?』って何だよ!お前にとって 昨日のはどうでもいい事だったのか?悩んだ俺が馬鹿みたいじゃないか この馬鹿!」
「馬鹿馬鹿って酷いよ日向クン!わ、私だって悩んでるんだから」
「ならどうして普通に俺と話してるんだよ。嫌だったならそれなりの態度をとってくれよ。期待「嫌じゃなかったから悩んでるんだもん!!」する...だ...ろ...」
遮るように大声を出す。日向クンは目を大きく見開いて石のように固まってしまった。その間 ぐるぐると悩んでいた事を吐き出す。
「いきなり告白されて、いきなりキスされて、は、初めてだったのに、日向クンは私が私が凪斗の事好きだって知ってるのに、私の相談も泣き言も全部聞いてくれたのに、片想いが辛いの私も知ってるから、でも急に言われて驚いて、驚いたけど怒る気持ちは無くて、嫌じゃ無くて、私...私っ...」
まとまりのない言葉の羅列を飛ばす私が落ち着くまで日向クンは待ってくれた。
「亜神田木は...俺とどうなりたい?」
「今まで通り側にいてほしい」
「それは無理だ」
「.........うん」
わかってる。わかってるよ。
「もう、亜神田木にとって優しい俺は無理だ。お前に好きになってもらえる為に優しくする...下心ありきの優しさしかお前に向けられない」
「日向クン」
「それでいいなら、ずっと側にいる。お前が辛い時は支えてやるし、弱ってる所を漬け込んで目一杯甘やかす」
「日向クン」
「本当は今までもずっとそうだったから変わりないんだろうけど、気持ち伝える前と後じゃやっぱり違うだろ?」
「...うん、そうだね。それでもいいよ。だって私、日向クンの事嫌いになれないもん。だからこれからもよろしくね」
すっと手を差し出す。自分がどれほど残酷な事を言っているのかわかってるつもりだ。それでも握り返された温かさに安心してしまった。私は日向クンを突き放せない。
「亜神田木、話がある。ついてきなさい」
そのまま二人で教室に入ろうとすれば担任が小走りでこちらに向かって来た。
「え?え?」
「詳しく説明している暇はない。はやく来なさい」
状況が飲み込めないまま日向クンと離される。振り返ると心配そうに眉を寄せる日向クンがじっとこちらを見つめていたから、大丈夫と言うように笑んで見せる。
思えば ここからが私にとっての不運の始まりだったんだ。
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chapter1終了です。今の所は夢小説と言うよりダンガンロンパの世界に生きる一人の女の子のお話ですね。狂愛要素はまだ先です。
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