※アイランドモードです。

「名前甘いのん食いたい持ってないか?」
「う、うるさいな創。…あとで、」
「えーっ、俺、採取の後なんも食べてないんだぞ?」
「…あのね、今私さ、採取の達成表書いてんの、…判るよね」




採取を終えて、自由時間にソニアさんを誘い損ねて、突然降って湧いた暇な時間にどう過ごそうかと考える前に脚がレストランに向いていた。

ヤケ食いでもしようと思ったから、だ。



階段に足を掛けると、上から人の声がした。

…苗字と、…日向か。




「はぁ、表なんて後でいいだろ」
「…私この後女子会があるから。空き時間今だけだから」
「…はいはい…。真面目でお堅いな、名前は」




くくく、と喉で笑う声。

最後に、「そこもまた好きなんだけど」と聞こえた。



…!?




苗字と日向、付き合っていたのか…!!?




「はいはい、私も好きだよ創」
「なら甘いのっ!お菓子くれよ!」
「…どうせ午後の自由時間には皆からプレゼント貰えるでしょ。創モテモテなんだから」
「いらない。名前のが欲しいんだよ、今。今、な!」




なんだろうか。
とても悪い事をしているような気になって来た。
特に日向のこんな声は聞いた事が無い。
口調も全く違うし。
完全に、苗字に甘えているじゃないか。




「…お菓子、無いよ」
「…ええええ!?」
「食堂には、持ってきてない」
「なんだよー、折角初めてつき合えた女から貰えると思ったのに」




オレは、いつまで階段の中途半端な所で立ち竦んでいればいいのだろうか。
勇気を出して、声を掛けるべきか。否、声掛けなんて普段しない事をしたら、聞いていましたといわんばかりではないだろうか。




「がっかりだ。死ぬ。もう死ぬ。帰る。自由時間なんて知るかよ。」
「…お菓子は、」
「ん?」
「草餅をつくったんだけど、コテージに、置いて来たの」
「…!!」
「夜、来る…?」
「行くに決まって…」
「う、うん、じゃ、私、達成表書き終わったから、女子会、行くね」
「え、キスくらいしてくれないのか?」
「今はしないってば…!!」




足音が、近づいて来る。

不味い。鉢合わせ、する。




「…!?」




瞬間、踊り場に人影。

眼の前に突然現れたオレを見て、固まる苗字。




「そ、左右田くん」
「こ、んにちわ」




我ながら、こんにちわ、は間抜けすぎる。




「…あ、聞いて、た?」
「わりぃ」
「一応、秘密にして貰えるかな。…からかわれるの恥ずかしいから」
「わかった」
「…ありがと、左右田くん」




ふわりと微笑む苗字。

なるほど、普段はクールに採取をこなす姿とこの笑顔のギッャプ。
日向はココにやられたのか。




出て行く苗字を見送ってレストランに一歩足を踏み入れると、




「……言うなよ」
「何がだ」
「お、俺が、今喋ってた事、全部だ。特に西園寺には言うな」




顔を真っ赤に染めた日向が、眉間に深い皺を寄せて睨みつけて来た。




「西園寺には言わないな。どうからかわれるか想像つくし」
「…」
「西園寺と仲がいい小泉には言うかもしねーけどな」
「おいっ、それもやめろおぉ」




ああ、首や耳朶まで真っ赤じゃないか。




「苗字が、好きなんだな」
「は?はぁぁ?なんで俺が、……、」




苗字に対して何か悪態をつこうとしたのだろうが、…




「…いや、綺麗、だよな、苗字…」




観念したのか、日向は舌うちをしながら机に突っ伏した。




「いいな、美人の彼女が出来て」
「……あー、…やばい、好き過ぎて毎日変なテンションだ」
「幸せじゃないか」
「……慣れてないから、よくわからない」




そういいつつも、最近の日向は採取の収穫量も上がってるし、掃除も自ら進んでこなしてるらしい。
苗字との付き合いが、いい影響をもたらしているんではないだろうか。




「……夜、来いってさ」
「よかったな。草餅貰えるみたいだな」
「……あー、…」
「顔、緩んでるぞ」
「ない!緩んでない!」




そんな日向を見て、ホンの僅か、寂しい気持ちになったのは、…自分も恋人が欲しくなったからだろうか。




いつか、オレにも。ソニアさんと付き合う事が出来るだろうか。その時、オレは日向みたいに甘えた声を出すのか。

…いや、




「それはないな」
「お前、なんか失礼な事考えてたろ」
「流石、勘が鋭い」




笑ってみせると、

いつもなら反論して来る筈の日向が、もう一度机に顔を伏せたので。



暫くはこのネタで優位に立てるな。

そんな事を考えた。






◇◆

甘いと言うより甘える日向クンでした。左右田クン視点ですみません。日向クンリクエストなのに左右田クン多めでした。




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