「ふ、古橋君の目が...ふくくっ輝いて...ます あははっ」
落書きと印刷が終わり、手にしたプリクラを眺めて笑う姿を横目に鞄にしまう。
「ちょちょっと待ってください」
「何だ」
「古橋君ってガラケーですよね?」
「そうだが?」
ものすごい勢いで迫ってくる花城から距離を取ろうと一歩さがる。
「なら、電池パックの裏にこれ 貼りましょうよ!」
「古いな」
「古い?」
「発想が古い」
「も〜いいじゃないですか。ほら速く」
押しに負けて貼るはめになってしまった。まぁこんな所誰も見ないだろうが。

大通りを鼻歌を歌いながらスキップする花城と他人の距離を取りたい。切実に。



「見てください!すごいでしょ?」
「....」
目の前に広がる向日葵に目を見開く。商店街から数十分歩いただけでたどり着いた向日葵畑。
「前はただの更地だったんですけど 寂しいから向日葵を植えたんです」
勝手にそんなことしていいのか?
私、ここ大好きなんです! と言いながら向日葵の中へ飛び込んで行く。ここから向日葵を持って来ていたのか。 晴れ渡った空の青と満開の向日葵の黄色と白一色だけのワンピースを着た花城の対比が悔しい事に綺麗だった。

「真実ちゃんまた来たのか」
急に聞こえた声に横を向くと小柄な初老の男性がニコニコと花城を見ていた。怪訝な視線を送ると
「ここの土地の管理者だよ」
と説明。
「君は?真実ちゃんの恋人かい?」
「はい」
どうしてそう答えたのか分からない。口からするりとこぼれ落ちた。
「真実ちゃん、明るくて可愛らしくていい子だね」
「はい」
「あ!おじさん、こんにちはー。また来ちゃいましたー!!」
向日葵畑の真ん中まで進み、振り返った花城の笑顔に目を細める。
「オレには眩し過ぎます」
「そうか....」
男性は片手を挙げ 花城に応じると
「後は二人でごゆっくり」
からかうように笑って行ってしまった。

「古橋君も来ませんか?」
その言葉に迷わず足を踏み出す。下手すればオレの背丈程ありそうな向日葵をかき分けて進む。花城なんてほとんど埋もれているようなものだ。細い身体を包む白いワンピースの裾を翻しながら花城はどんどん奥へ奥へと行く。鬱蒼と茂る向日葵の中、消えてしまうんじゃないかと馬鹿な想像。
「きゃっ」「うっ」
突風を目をつむってやり過ごし、薄く目を開ける。
「花城?」
本当に消えていた。嘘だろう?
「花城!?花城!?」
普段のオレからは考えられない切羽詰った声で名前を呼ぶ。背伸びして見回しても視界に映るのは大輪の向日葵だけで。
「....っ」
背筋を冷や汗が伝う。
「花城...」
おろおろと戸惑うオレは傍から見ればとても滑稽だったろう。視界の隅に白を捉え、慌ててそちらに駆け寄る。
「花城!!」
「あ、見つかってしまいまし...」
しゃがみこんでこちらを見上げる花城を抱きしめる。
「うええええ!?ふふ古橋君?なんのご褒美ですか!?」
「消えたかと思った」
「やだなぁ、人間が消える訳イタタタっ痛いっ痛いです古橋君!!」
間の抜けた声に怒りと照れ隠しも込めて腕の力を強める。
ギブギブ と背中を叩く花城を開放する。ポーカーフェイスにこれ程感謝した事はない。
「あーあ、見つかる前に完成させたかったです」
作りかけの花輪を分解しながら頬を膨らます。それをつつこうとするが避けられ、代わりに耳に何かを引っ掛けられた。
「?」
確認しようと手を伸ばせば、
ピロリン♪
花城がオレにケータイを向ける。写真に撮られた...のか?
「ふはっ古橋君かっわいー」
耳にかかっていたのは向日葵で...今、花城のケータイに保存されているであろう自分の姿を想像したくない。
「消せ。今すぐ消せ」
「嫌です」
「即答するな」
「嫌です。家宝です!」
仕返しに素早く花城の耳に向日葵を引っ掛け 写真を撮る。
「間抜け顔」
「うわああああ消してください!」
「お互い様だ」
画面に表示される花城のきょとんとした顔に「かわいいな」とつぶやいた声はケータイの着信音にかき消された。 助かった。
花城はそのまま電源を切る。
「出なくてもいいのか?」
「いいんです。それより古橋君、ゴローンってしてみません?」
ゴローン と言いながら花城は仰向けに寝転がった。
「服が汚れるぞ」
「楽しいですよ〜」
ふにゃっと笑う花城につられて地面に倒れ込む。
「涼しいでしょ?」
「ああ」
茂る向日葵が影を作り、今までの暑さが嘘のようだ。
「地球が回ってるなぁって実感しません?」
「いや、雲が動いてるなとは思うが」
「えー、もっと壮大に考えましょうよ」
おそらく頬を膨らませたであろう花城の顔の辺りをつつくと当たりだったようでふすーっと間抜けな音が鳴った。
「古橋君古橋君、あの雲ハートの形してますよ!」
「少し無理があると思うが」
「ロマンがないです!」
「ロマン...なのか?」
「あれはネコ、あっちはチューリップ!」
「オレには雲の塊にしか見えない」
「えー」
いろいろと雲を指していた手をぱたりと下ろす。オレの手の近くに下ろされたそれにそっと指を絡ませる。ピクリと跳ねて逃げるように引く花城の手を更に強く握れば恐る恐る握り返された。
(子供体温だな。温かい)
何も話さなくなった花城に訝しく思い 顔をそちらに向ける。
「あの雲はソフトクリームみたい!ね、古橋君 この近くにジェラート屋さんがあるんです。行きましょう!」
勢いよく立ち上がる花城の耳が真っ赤だったのは気のせいではないと思う。
「待て、真実。背中が土だらけだ」
「え?」
振り回されてる仕返しをしてやろうと名前で呼べば林檎のように赤くなった顔がオレを見た。熱っぽい潤んだ瞳にオレの中ですとん と何かが落ちる。
「え?え?え?」
「友人でも名前で呼ぶだろう?」
だからお前も と目で促せば、しばらく視線を泳がせつぶやいた。
「康次郎君」
このくすぐったい感覚が心地良いと思えるくらいオレは毒されてるようだ。


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