蝉の鳴き声と体育館独特の蒸し暑さに苛立ちが募る初夏。朝からの厳しい花宮特製メニューに辟易していた時、季節外れの台風のようにそいつは現れた。

「私を2番目の彼女にしてください!」

目の前に突きつけられた 摘みたてであろう向日葵の向こう側で顔を赤らめるそいつに冷めた目で返す。
「すまないな、意味が分からない」


「と言う事があった」
「何だそれ」
「だから意味が分からないと言っただろう」
「あー」
「何故2番目なんだ?」
両手を伸ばし「ブーン」と言いながら廊下を走り回る変人女から目を反らし前の席の瀬戸に今朝の出来事を話す。こいつも同じバスケ部だが寝坊するから朝練にはいなかったのだ。
チャイムが鳴っても騒がしい教室。教師が入って来てやっと席に着く生徒達。瀬戸もオレの席までもたれかかっていた体を起こし前を向く。
「起立、礼、着席」
学級代表も務める花宮の声にやっと静まる。変人女は未だに廊下を走り回っているが教師は構わず授業を始める。おい いいのか アレをほっといて。
「花城真実。金持ちの一人娘らしくて、甘やかされて育ったのか言動が幼い。授業も録に受けないのに留年どころか先生に怒られる様子も無い。おおかた丸め込まれてるのかもな」
教師がこちらに歩いて来たので一度話を止めた瀬戸は更に声をひそめて続けた。
「後、花宮の従妹」
「花宮の!?」
名前を呼ばれた花宮が振り返る。思わず荒らげてしまった声に慌てて口をつぐむが「古橋君 静かに」と注意されてしまった。



特に何も起こらず迎えた放課後。「彼女にして」と公衆の面前で言える恥晒しな奴なら何か仕掛けて来ると身構えていたのに。拍子抜けだと思った矢先。
「古橋君古橋君」
「.........何だ?」
「恋人になるにはまずお互いの事をよく知らないといけないと思うんですよ!」
「ああそうか」
「そ こ で !私の事も知ってもらいたいんです!!」
「いらない」
「花城真実!16歳。ピッチピチの花も恥じらう女子高生!好きな食べ物は甘いもの全般。特にアイス!キラキラフワフワしたものが大好きで趣味はキラキラフワフワしたもの集め!好きな人はー...古橋康次郎君です!キャー!」
「オレはお前と付き合うと言ってないし、恋人になるつもりも無い。」
「あのっ古橋君っ」
部活に行こうとしたオレの服の裾を引っ張る花城にため息。
「ちょっとアンタ古橋君から手離しなさいよ」
「古橋君がアンタに興味ないって言ってんだから諦めれば」
「図々しいにも程がある」
「ずっと思ってたんだけど左右違う靴下とかダッサ」
「アクセも品が無いし、何コレおもちゃ?」
思ってた事を代わりに言ったのは(少し言い過ぎだが)オレのファンクラブとか言う変わった集団の女達。古橋のどこがいいのか分からないとザキが憤慨していたがオレも分からない。
「だいたいアンタ調子乗り過ぎなのよ。家が金持ちだかなんだか知らないけど「真実に何してる」
さすがに言い過ぎだと注意しようとしたとき、花宮の冷えた声が女達にかけられた。
「は、花宮君?」
「集団でなきゃ偉そうな口きけねぇ屑が。品がねぇのはお前らの行動だ」
「ご ごめんなさい」
去っていく女子たちに軽蔑の目を向ける花宮を唖然と見る。この変人女の為なら優等生の猫被りを壊してもいいのか?視線に気付いた花宮は一度オレを睨み付けて教室を出ていった。
「どうしてオレが睨まれなければならないんだ」
「まこ、ちょっと過保護気味だから」
へへっと笑う花城に
「さっきの彼女たちの事、なんとも思わないのか?」
と尋ねる。
「あの子たちも古橋君が好きなんだろうし 別に...それに私の言動がおかしいのは自覚済みです!」
あっけらかんとした言葉に面食らうが最大の疑問をぶつけてみる。
「どうしてオレなんだ?」
返ってきた答えはくだらないものだった。
「髪飾りを拾ってくれたじゃないですか」
「それだけ?」

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