何とか警備員から逃げ切り、たどり着いた川の近くにある公園。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ...」
「もう息が切れたのか?体力無さすぎるだろ」
「バスケ部の康次郎君と比べないでください。それにこんな長距離を全力で走ったの初めて...」
「そうか」

途切れた会話。
川の音が耳に心地良い。
握り締めた真実の手から鼓動が伝わって来る。オレのも伝わっているのだろうか?そうであればいいのに。
おもむろに真実が言った。

「ここで康次郎君に髪飾りを拾ってもらったんです」
「そう言えばたかが髪飾りを拾ったくらいでどうしてこれほど?」
「だって....」

思い出すように遠くを見る。




何か綺麗な花が咲いていないか?川の中に生き物はいないか?
そう考えながら下を向いて歩いていたら、どこからか飛んできたボールが私にぶつかりました。
「うわっと」
川に落ちる事はありませんでしたが、しっかり とまっていなかったのか髪飾りがするりと外れて....
「あー!!」
手を伸ばしましたが間に合わずおろおろしていると、
「待ってろ」
ボールが飛んできた方向からやってきた男の人が何の迷いもなく川へ飛び込んで、
「すまなかった。ケガはないか?」
「あ、うん。大丈夫。それより....」
「なら良かった」
ふっとゆるく上がった口角と整った顔に私は一目で恋に落ちたんです。
「古橋、ボールどうなったー?」
「原、コントロール悪過ぎだ。人に当たっただろう」
「めんごめんごー」
「あ、あのっ」
彼はボールを拾ってそのまま去ってしまいお礼を言う事が出来なくて....
霧崎第一のジャージを着ていたのでもしかしたら、とまこに聞いたら....



「康次郎君だったんです」
(覚えてない)
「あそこまで王子様だったらもう好きになるしか....」
「....」
「覚えてませんか?」
下がった眉に慌てて取り繕うとしたが、
「あ、いや....すまない」
覚えてないものは仕方無い。
「いいえ、謝ることはないです。覚えてないと言う事は康次郎君にとってそういう行動は当たり前だったんです」
「そ...うなのか?」
「さすが私の認めた人」
無意味にくるりと回りワンピースの裾がふわりと広がる。
「あ!」
「ん?」
道端の小物売りの元へ駆け寄ると何かを熱心に見つめていた。
「キラキラして、太陽みたい!」
視線の先にはリングネックレス。嵌め込まれた飾りが光の反射によって様々な色に輝いていた。
「そういうのが好きなのか?」
「はい!」
「揃いで買うか?」
「いいですね」
「いや、買ってやろう」
「ええ!?そんなっ悪いです」
財布を取り出し確認しながら言う。
「同期なのだから敬語はいらない...5000札しかないな。すまないがお釣りは出るか?」
「ちょっと無理だねぇ」
「そうか、ならあそこのコンビニで崩してくる」
辺りを見渡し 見つけたコンビニに向かう。
「いいですってば」
「また敬語を使っているぞ。ちょうど喉が渇いていたからいいんだ。ここで待ってろ真実」




「康次郎君!!」
コンビニへ駆けていく彼を追いかけたかったけど鼻にどろりとした違和感。手のひらで覆えば慣れた生暖かい液体がボタボタと落ちてくる。その場を離れ ケータイを取り出す。電源を着ければ鳴り響く呼び出し音。
「...まこ...」
〈おい!真実!お前今どこにいんだよ!?メールも電話も無視しやがって、電源は落としやがるし...今日は大事な日だって何度も「まこ...たす...けて」真実!?おい真実!?どこにいんだ!大丈夫か?返事しろ!〉
真実!?真実!!!と何度も私の名前を呼ぶまこの声が漏れるケータイが手から滑り落ちる。鼻から喉にへばりつく鉄の味に咽て咳が止まらない。息ができない。倒れ込む私の姿に周囲から悲鳴が上がる。

「こ...じろ...くん...」


最期に貴方に会いたい。




意外とレジが混雑していて、時間がかかってしまった。
「真実、お前炭酸は飲める...」
ペットボトル2本を持って真実を待たせていた場所に戻ったが見回してもどこにもいなかった。
「すまないが真実...先程オレと一緒にいた女を知らないか?」
小物売りに尋ねれば
「さぁ?トイレにでも行ったのかね?」
と返された。
「...そうか。ああ、それ二つください。」
「はいよ」
先にリングネックレスで買っておこう。キラキラと輝くそれを受け取りベンチに座る。サイレンの音がする。近くで事故でもあったのだろうか?目の前を通り過ぎる救急車を目で追ったが、手の中にあるアクセサリーを見てそんなことへの意識はすぐに無くなった。





オレは信じて疑わなかった。真実が戻って来る事を。これを渡した時の真実の顔を想像しては笑っていた。


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