からかう

「西川恵です。至らないところもあると思いますが宜しくお願いします」
きっちり45度に体を折って礼をする恵に今吉は
(想像と違う。ホンマにただのマジメっ子やん
と心の中でつぶやいた。仕事もソツなくこなし、恵の初マネージャーの一日は順調に終わりをむかえた。

「お疲れっしたー!!」

「おもんない」
「何がだ」
ぶーっとむくれる今吉に諏佐はたずねる。
「若松が連れて来た子。めっちゃ普通やん。普通言うかマジメやん」
「良いことだと思うが」
「やって若松の好きなヤツやで?」
椅子をガタガタさせながら今吉は続ける。
「なんか、もっとこう 派手で豪快な子が来ると思とったんに...あれやったら美女と野獣やん!」
「若松は野獣ではないと思うぞ」
「美女ってことは否定せんのやな」
「“若松の好きなヤツ”ってこともな」
「言いますなぁ」
「部活中あれだけ気にかけてたらいやでも気づくだろ」
今吉は揺らしていた椅子を止めて諏佐を見る。
「ワシだけ腹黒言われとるけど諏佐も結構黒いよな?」
「お前で緩和されてるんだろ」
「認めるんかい!」
ハァーと後ろに倒れ込み、ロッカーに体重を預ける。変化が欲しい。弄れる子が欲しい。若松イジリはもう飽きたし、諏佐は構ってすらくれない。マジメっ子をからかうのも楽しいが 引き際を見極めるのがめんどくさいのだ。ハァーと再びため息をつくと廊下から声がした。
「若松 私がそれ運ぶから」
「いいって、これくらい楽勝楽勝」
「何の為に私マネージャーになったの!?」
「ほら、もう着いたし オレが着替えるまで待ってろよ?送るから」
「え?あ、うん」
いちゃつくなら他所でやってくれ。タオルの入ったカゴを抱えながら入ってきた若松にチラと視線を向ける。
「今吉さん、諏佐さん、お疲れっス!」
「おー」
「お疲れさん」
「タオルここ置いときますね」
「...なー若松。」
「はい?」
指定の場所に直してから着替えだした背中にたずねる。
「若松と西川さんって付き合っとらん言うとったよな?」
ガッシャーンと派手に転ぶ若松。せっかく綺麗にたたまれたタオルにつっこんでしまい
「あーあー」
と呆れる諏佐。そんな目で見んといて。やっぱり若松イジリは楽しいわ。
「そ、そうっすけど?」
こちらを向いた顔は真っ赤で、ホンマかいがいのある奴や。
「今はどうなん?つき合うとるん?」
「ままままさか」
「せやったら 何で送ってやるん?」
「だってもう暗いし 初めてのマネージャーで疲れてると思って」
「ふーん、それだけ?」
たたみかける。
「あいつあんなにかわいいのに一人で帰らしたら危ないじゃないですか!」
言ってから しまった と顔を青ざめる。赤うなったり、青なったり大変なやっちゃなあ。大丈夫。それについてはからかわん。
「確かに西川さん一人で帰らすんわ危険やな」
「でしょう!?」
「ワシが送るわ」
「えっ!?」
ビタリと固まる若松を笑わないようにするので必死だ。普段から微笑んどって良かった。(諏佐は胡散臭いと言うが)
「そ、そんな 今吉さんに任せるなんて、第一今吉さん寮なのに」
「寮なんはお前もやろ?ワシもう着替えとるし、西川さん待たせるのもアレやから...「着替えました!今 着替え終わりました!!」
「若松ボタンかけ違えてるぞ。今吉もいい加減にしろ」
諏佐が今吉を引っ張って扉へ向かう。
「若松、鍵頼む。」
「え?あ、はい」
「ちゃんと送ってやるんだぞ」
「....はい!」
おーいい笑顔や。

引きずられるがまま部室を出ると こちらも顔を真っ赤にさせた恵がいた。
「なんや 聞こえとったん?」
「わざとだろ、今吉」
「人聞き悪いこと言わんとって。奥手な後輩の恋の手助けをしてやってるだけやん」
「あああのっ」
「なん?西川さん」
「若松は私に恋愛感情を抱いてないと思います」
「若松“は”?」
「え?」
「ちゅーことは西川さん“は”恋愛的に若松を好いとるんか〜」
「は?あの 違いまっ」
「違うん?なら嫌いなん?」
「違います!!」
「好きなんか!」
「どうしてそう両極端なんですかー」
頬を真っ赤に染める西川に諏佐がご愁傷様と言う顔で
「めんどくさいやつに捕まったな」
とつぶやく。おもちゃを与えられた子供よろしくイキイキしだした今吉の襟首をもう一度引っ張る。そうやな。マジメっ子からかうんは引き際が大事や。
「若松と西川さんお似合いやからくっつけるの協力しよか?」
その言葉に恵の羞恥メーターが限界を迎えた。

今吉と諏佐が自分の顔を唖然と見つめるのに気付き、しまった と元に戻すが遅かったらしい。
「わはははははははははははははは」
今吉の長い笑い声が廊下に響く。
「し、失礼だぞ」
と諌める諏佐の口元もヒクヒクしている。「忘れてください」
恵は顔を両手で覆い うつむいた。やってしまった。変顔を.... 自己嫌悪に陥っていると
「ほら、もう帰るぞ」
と諏佐の声がした。
「西川ー また変顔見してな〜」
どんどん離れる声に
「しません!!」
と返す。
「どうしたんだ?何か騒がしかったけど...」
ボタンをとめなおし 出てきた若松の顔を見ないよう歩き出す。
「何でもない。鍵返しに行こ?」
「?ん?おう」
自分が若松に特別な感情を抱いている自覚はあったけれど、それを“好き”に当てはめるのは少し違う気がする。きっと若松も そうだ。並んで歩く二人の頬が赤かったと今吉にからかわれたのは、別の話。




 
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