葉山小太郎。諸悪の根元。私の貧乏神である。言い過ぎ?そんなことない。入学式に出れなくされるわ、入部先は同じバスケ部でニャーニャーまとわりついて来るわ、さらに最悪なことには同じクラスだった。ジーザス。神様は入学式当日に寝坊した私に罰を与えているのですか?

「おっはよー岡崎!!ねーねー一緒に朝練行こっか」
「岡崎〜、教科書忘れた。貸して?」
「えっと、その…わかりません…岡崎〜代わりに答えて〜。」
「だし巻き玉子うまそー 岡崎、オレのにんじんと交換しよっ」
「岡崎ーポカリ〜ぃ」

「あーもうっ朝からアンタみたいなうっさいやつといたくないの!」
「アンタに教科書貸したら私のなくなるでしょうが」
「この距離で叫ぶな。X=3Y+2!」
「アンタがにんじん嫌いなだけ…って あーっ私のだし巻き…」
「私はポカリじゃなーい!!」

葉山に振回される日常。どうしてこんなに懐かれた?あまりにも岡崎岡崎とうるさいので一学期始まって一週間もたたないうちに、席替え(私が葉山の隣に移動)させられた。理不尽。

「岡崎、タオルー」
「だから私はタオルじゃなーい!!」
「岡崎オコ?オコなの?ねぇねぇ岡崎〜」
「岡崎岡崎うるさいの よっ」
全力で投げたタオルはあっさりキャッチされてしまう。悔しい。
「じゃあ、旭」
「どうしてそうなる!?」
「もー旭ちゃんも小太郎も落ち着いて。練習中よ?」
「だってレオちゃん、こいつが!!」
「構うだけ無駄だぞ、岡崎」
「永吉まで…」
レオちゃんと永吉が私たちの間に入る。むむむー と変な声を出していた葉山がビッ と私を指さして叫んだ。
「なんで二人は名前呼びなのに、オレだけ あいつ、アンタ、こいつ呼びなのさーっ」
「人を指さすな!!」
レオちゃんと永吉の間から伸ばされた腕をバインダーで叩く。
「いったー…せめて苗字で呼んでよ。」 大きな瞳にじっと見つめられ居心地悪い。ハァッとため息をついてから、
「葉山」
と読んでやる。それだけでパア と目を輝かせる。
「さっさと練習戻って葉山」
「そのノリで小太郎って呼んで?」
「はぁ!?」
意味がわからない と睨んだ視線を全く気にせず、
「呼んでくれないと練習戻らなーい」
と口を尖らせる。こいつがいつも私に絡むからお説教に巻き込まれた回数は数しれない。それはごめんだ。
「はぁー」
さっきよりも深くため息。期待に満ちた目を見ないよう口を開く。
「コ...コ...」
「こ?」
「コ...コタロー」
「なあに?旭」
ガバァ と抱きついてきた葉山の顔面をバインダーで押さえつける。
「名前呼んであげたんだから練習戻って!葉山!!」
ぐぐぐ とバインダーを押し返しながら、
「あーっ苗字呼びになってる」
と文句を言ってくる。
「べっつっに、い・い・でショーがっっうわっと」
負けじと押しかえすが男子の力に敵うはずなく、すっぽりと腕の中に包まれてしまった。
「やだ。これからもずっと名前で呼んでくれないと練習しない」
ぐりぐりと頭を肩に押し付けてくる。
めんっっどくさい!!ここで練習しようがしまいが私に関係ないと言えればいいのだけど、葉山の才能は十分理解している。全国制覇にはこいつの力が必要となるだろう。
「わかった。呼んだげるからはなして」
「うん!」
(しっぽ振ってるのが見える...)
「練習しなさい!コタ!!」
「コタ?」
「犬みたいでいいでしょ」
「えーやだー小太郎って「うるさい、さっさと戻りなさい コタ!!」
「はぁい…」
とぼとぼコートへ向かう背中が少し可哀想でポツリと呟く。
「頑張ったらちゃんと呼んであげてもいい」
「ホントに!?」
いきおいよく振り返られて こくりとうなずいた。
「頭撫でてよく頑張りましたってやってくる?」
「やらない」
「えーやだ「コタ!!練習!!」
「はい!」
練習に戻ったのを確認して 今日一番大きなため息をつく。パンっと目の前で手を叩かれ、慌てて顔を上げるとレオちゃんがウインクをしながら言ってきた。
「ため息ばかりついてると幸せ逃げるわよ」
はいっと閉じたままの両手を差し出され、
「気をつけるね」
と苦笑いしながら逃げた幸せ(?)を受け取る。
「葉山の世話お疲れさん」
永吉の大きな手にわしゃわしゃと撫でられ、
「本当、躾のなってない犬だよ、あいつは」
と愚痴る。
「あん、もう、鈍いんだからっ」
レオちゃんがもだもだしてたけど取り敢えず葉山に中断されていた作業を再開した。

コタ呼び案外気に入りました。




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