やばいやばいやばいやばい
頭の中はそれでいっぱいだった。昨日降った雨のせいで出来た水たまりを飛び越える。おろしたての綺麗なローファーを汚さないように。新しいのは靴だけじゃない。制服も鞄も靴下だって新しいのだ。今日は入学式。記念すべき日に私は寝坊した。そう、寝坊した。髪を靡かせながらもう一度水たまりを飛び越える。髪が直毛で良かった。多少乱れてもすぐ直るし。着地して再び走り出す。地元の高校だから徒歩で通う事にした。今 全力疾走すれば確実に間に合う。間に合

「うわあぁぁぁ どいて〜っっ」

曲がり角から騒がしい声。ぎょっと身を竦めると
「よっと!!」
男子が私の頭の上をバク宙で身軽に越えた。
「ごめんごめん。!ケガしてない?」
「あ はい 大丈夫です。」
「その制服....君洛山?」
「はい。」
「オレもなんだ。一年生?」
「はい。」
「オレも一年。じゃー入学式やばいよね」
「う.うん」
「だよね〜あ!いいこと思いついた!近道しようよ」
「え?」
何度も歩きなれたこの道に近道があるなんて知らない。
「こっち!」
腕を引かれ その男子はあろうことかヒラリと塀の上に飛び乗った。まさかそうなると予想していなかった私はそのまま塀に打ち付けられる。
「痛っ」
「あ!ご、ごめん大丈夫?」
大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ。
「大丈夫じゃなくても時間やばいから行くよ!!」
両手を引かれふわりと浮遊感。塀の上に引き上げ手を掴み直し
「こっち!」
と走り出した。
「ちょっとや、やだ こ、怖いよ」
走る為に作られてる訳じゃない塀の上はバランスが悪く背筋がヒヤリとする。私の制止の声も聞かず走り続ける男子。木の枝や家の壁が体をかすめる。もう嫌だ。

何の前触れも無く止まられ彼の背中にそのまま突っ込んで
「うわぁっ」
「え?」
グラり。世界が回る。え?私達落ち....

来ると思っていた衝撃が無い。ゆっくりと目を開けると不安そうに覗き込む男子のドアップ。お姫様抱っこの状態だった。急な出来事に私は思いっ切り
「いやぁっ」
「痛い!!」
そいつの顔を殴り飛ばした。手を放されまた宙を落ちるが

ボスッ
何か柔らかい物の上に投げ出された。二度目も衝撃が来なかったので目を開けて見ると、鼻に突く異臭。ゴミ捨て場に私達はいた。
「嘘最悪」
慌てて立ち上がる。
「何で急に止まったの!?」
「道....迷った」
「はぁ!?ふざけないで」
新しい制服はドロドロで生臭
いし、濡らさないよう気をつけた靴は悪路を走ったせいで傷だらけ。鞄もいろんな所にぶつけてボロボロ。もう最悪。あのまま行けば無事学校にたどり着けたのに。怒りをぶつけようとしたとき
「コラーそこで何してるー!!」
管理人の怒鳴り声が鼓膜を揺らした。


あぁ なんて最悪な初登校。






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