遠距離恋愛なんて性に合わない。は 、ただの言い訳だろう。けれど手放すには惜しい子だったから 離れても「彼氏」「彼女」の関係は取り消さなかった。

今日は久しぶりに彼女と会う日。お互い予定がなかなか合わなくて、やっと重なった休日。嬉しくて無意識に鼻歌を歌っていた。どこに連れて行ってあげようか?あの子の好きな作家の映画に行こうか?モデル仲間に教えてもらったレストランにしようか?どこに連れて行っても、きっと喜んでくれる。
鏡の前で服装チェック。このまま撮影に出れるくらい完璧だ。やっぱり自分の一番かっこいい姿を見てほしい。

もうそろそろ家を出よう。少し早いけど 待たせる訳にはいかない。ケータイをポケットに入れようとすれば、響く着信音。今まで考えていた人の名前が表示されていて、心が弾む。
「もしもし、千夜っち?」
〈涼太?今どこ?〉
「家にいるっス。出ようとしてたところで〈今日のデートの予定、何かたててる?〉「ぼんやりとは...あ!千夜っちの好きな作家さんの作品が映画化されてるからみにいこ〈今日は涼太のうちでゆっくりしたいな〉
「え?」
〈いいでしょ?たまには、だらだら〜っと過ごすのも〉
「で、でも せっかくのデート〈涼太は私と二人きりになるのいや?〉
「そういうわけじゃ」
〈いつも私を楽しませようと無理して 合わせてくれるから、...悪いなって。だから今日はおうちデートしよ?〉
ああ、千夜っちのこの優しさが好きなんだ。
「わかったっス。待ち合わせ場所で待ってて。今 迎えに行くから。」
〈いいよ。そのまま涼太の家に行く。〉
好きなんだけど、今は迷惑。
「そ、そうっすか。」
〈うん、待ってて?〉
電話が切れてすぐ 部屋の片付けに奔走したオレは、焦り過ぎていて いつもは話しを遮ることの無い彼女が有無を言わさぬよう、自分の意見を言った違和感に気付けなかった。


「散らかってるけど気にしないでくださいっス。なにか飲み物持ってくるから、座って待ってて?」
「うん。」
そうだ!スタッフさんにもらった紅茶を淹れよう。おいしいと評判らしいし。

「お待たせっス〜。千夜っち砂糖二杯っスよね?」
「うん。」
「はい、どうぞ。」
「うん。」
「さて、何する?最近あった話しとか...あ!イチャイチャしちゃう?」
「うん。」
おかしい。抱きついても うん。 しか反応してくれないし、何より今日一度も視線が合ってない。握り締めた手をじっと見つめている。辛いことでもあったのだろうか。彼氏として元気づけてあげないと!
「千夜っちが好きそうなお菓子あるんスよ!食べよう!」
棚からお菓子を取り出そうとして 片付け忘れたものを見つけ、彼女に見せないよう背後に隠す。
「はい、どうぞ。」
机の上に並べても 握り締めた手から視線は外れない。
「千夜っち?」
のぞき込もうとする前に彼女は口を開いた。
「私ね、浮気される方も悪いと思うの」
「え?」
「涼太が遠距離恋愛向かない人だって知ってたけど、好きだから、好きって言ってくれたから、信じようって、」
どういうことだ?
「私が馬鹿だった。」
「ちょ、ちょっと待って。千夜っち何か勘違いしてるっス」
「先週の日曜」
言われて背中に冷や汗がつたう。
「用事があるってデート断られたけど、顔だけ見れれば と来たの」
落ち着け、こういう状況にオレは慣れてる。
「そしたら涼太、他の女の子と腕くんで歩いてた」
「なんだ、来てくれてたなら声かけてくださいっス〜。あれはね、ファンサービスっスよ。」
ニコッと笑いながら ねっ?と首をかしげる。このスリルがたまらない。
「そう...」
理解が深いから手放したくないんだ。
「千夜っちのオレの仕事 理解してくれて、受け入れてくれる所好きっスよ」
頭を撫でようとしたら、握り締めた手のままはらわれた。
「え?」
「嘘つくんだ」
笑顔で固まる。
「嘘なんかついてないっスよ」
「じゃあこれ何?」
オレの方に体を乗り出し、背後に隠していた女性もののアクセサリーをつまむ。声を上ずらせたら駄目だ。どもっても駄目。ゆっくり説明しないと。
「それは 多分っつ」
説明しようとフル回転させた脳が彼女が机を拳で叩いたことで、停止する。未だにカタカタ揺れるティーカップの音が響くくらいこの部屋は静かだった。
「これ」
静寂を破ったのは彼女の澄んだ声。ずっと握り締めたままだった手のひらを広げ、パラパラと机の上に何か落とす。確認しようと顔をよせ、それらが何か理解したとき彼女は笑顔で告げた。
「涼太の浮気相手さん、いやあっちが本命なのかな?まぁいいや。涼太と付き合ってるって認めたよ」
ゴテゴテと無駄に装飾された三つの破片。オレにベタベタ触ってきた指を飾っていた、
「爪三枚剥いだら泣きながら認めたよ」
ネイルから目を外し、日常会話の延長上でとんでもないことを言った彼女を見る。
「馬鹿にしないで」
ポロリ
瞳から派手に飾ったネイルよりも綺麗な涙がこぼれ落ちた。



いいわけ【言い訳】

@物事の筋道を説明すること。
転じて、過ちを謝するため、事情・理由を説明すること。申しわけ。弁解。
Bことばの使いわけ。



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