ラフメイカー
銃を構えろ。
できぬなら死ぬだけ。
殺らねば殺られる。
ここは戦場だ。

だからと言って笑ってはいけない理由はないだろう。
たった一度の人生、たくさん笑って生きたいじゃないか。




「ハハ、いい笑顔してるな、お前」

指先に力を入れた。
腕が衝撃を受けて震えた。

私は笑う。

そんな私の姿が、目の前の画一的な白黒のクマのマスクの瞳に映っている。

希望は最初から私の中にあった。
なら絶望はいつ......。

「なぁ、絶望はいつ産まれたんだろうな。答えられるか、お前」

無機質なレンズが瞬きをした。ように見えた。

レンズ越しの瞳がぎろりと私を捕らえる。

血に塗れた両手が伸びてきた。
それを避け、引き金を引いた。

「わからないよな。絵に書いたようなアホ面してるもんな」

赤い血が飛び散った。

それを見てると、こいつら絶望も、全くの敵だとは言えなくなる。

私たちだって、別に絶望を抱えてないわけじゃない。
堕ちようと思えばいつでも堕ちれる。

でも私たちは、超高校級の絶望こと江ノ島盾子に洗脳されて頭が空っぽな絶望と違って道徳と理性があるから堕ちないだけだ。

それが私たちと絶望の違いなのかもしれない。

「相変わらず危なっかしい戦い方だな。大体モノクママスクをつけている此奴等の表情なんてわかるわけないだろう」
「生きてたの、かませ眼鏡ちゃん」
「その呼び方は止めろと言ってるだろ。絶望の残党と共に殺すぞ」
「ハハハ」
「......」

戦場では毎日幾多の仲間が死んでいく。

その瞬間をもう何回見てきたのだろう。

本当に命は儚く呆気ないもののように思えてくる。

「...お前は、さっさと死んで、この戦いから離脱したいのか?」

眉間に皺を寄せる彼に視線を向けた。

「死にたいとは思わないさ。死んでいった奴等のためにも、なるべく長く生きようとしているんだけどな」
「そうは見えんな」
「そうか。アハハ」
「何故笑う?」

楽しいことなんて何もないぞ?
銃声に混じって彼の呆れ声が響く。

「楽しいことも幸せなことも、たくさんあるさ。あんたらは、そのことを忘れてるだけだ」

例えば青く澄んだ空とか、あんたが生きてるだとか。

日々の時間はそういった何気ないもので色付いていく。

楽しいことや幸せは、常にそこにあるのだ。

しかし人類はそのことを忘れている。

大きな絶望が、すぐそこにあるからだ。

「お前は異常だな。他のやつらがウザがるのがよくわかる」

絶望に塗れた戦場で、笑顔を絶やさない私は異常者らしい。

まぁ、理屈は理解できる。

絶望を目の前にしたときに絶望しないで、いつ絶望するんだってことだろう。

「おやおやぁ、その言い方だと、かませ眼鏡ちゃんは私をウザがってないようだな」
「ウザいさ。すぐにでも殺してやりたい。だがお前の腕は惜しい」
「それは有りがたきお言葉」

背中合わせにあんたの声。
ああ。あんたが生きている。

誰の中にも産まれた時から希望がある。

そして成長の過程で絶望を知っていく。

希望の方が昔から存在しているのに、絶望の存在が大きいと、人々は希望を見失ってしまう。

人類はその希望を見失ってしまった。

しかし、いつかきっと、この闘いの成果が、彼らに希望を思い出させるだろう。

銃を構えろ。
ここは戦場だ。

「たった一度の人生、たくさん笑って生きたいじゃないか」
「はっ。それもそうだな」

思わず振り返る。
肩越しのあんたの口元は確かにつり上がってた。

「...白夜」

溢れた言葉に反応するようにあんたもこちらを向く。
正面から見据えた美しい笑顔に私の全ては奪われた。

また幸せが一つ。目の前に。

ゆるりと挙げられた手には銃。その銃口は真っ直ぐ私に。

パァーン

耳元で鳴り響いた銃声に思わず目を瞑る。
振り返ればモノクママスクをかぶった男が一人、音をたてて倒れる所だった。

「どうした愚民。お前らしくない」

さっきの笑顔が嘘のようにこちらを見下だすあんたに微笑む。


「あんたの笑顔に見惚れたのさ」

素直に本心を伝えれば苦虫をかみつぶしたような顔をされた。
おっとと、怒らせちまった。


「馬鹿め」

再び向けられた背に 本心なのに と呟く。

「なぁ、かませ眼鏡ちゃんの幸せってなんだい?」

関係ない事を聞くな と一刀両断されると思った問いに答えがあった事、そしてその内容に また、動きを止められた。

「お前の笑顔を見る」
「お前に名を呼ばれる」

少しの間の後柔らかな声が耳を震わす。

「お前が生きている」

「アハハ。こりゃ死ねなくなっちまったな」
「死ぬつもりだったのか」
「まさか。ただあんた...白夜を逃がす為なら」
「お前に助けてもらう程俺は落ちぶれていない」
「あそ」
「十神の名にかけて、森下を守る。」

今日の白夜はどうしたんだろう。増え続ける絶望の残党に絶望しているのだろうか。

「なら、私は白夜に守られた命にかけて白夜を守る」
「何をッ「で、生き延びれたらさっきの笑顔を見せてもらう。ついでに好きだって伝える」

目の前が黒で埋め尽くされた。
鉄の匂いが鼻を突いて、返り血に塗れた白夜のスーツだと理解すると同時に彼の腕の中にいるとわかった。

「捻くれ者」
「私は世界一素直さ」
「...いくらでも...見せてやる...愚民の願いを叶える事も十神の指名だ」
「どっちが捻くれ者なんだか」

あんたが望むなら私も見せてやるさ。
私の笑顔があんたの幸せになるなら私は笑ってみせる。

「幸せがここにあるのに笑わない理由はないだろ」




━━━━━━━━━━━━━━━━
絶対絶望少女の未来機関十神さんが戦闘慣れしてたので思わず...。


prev next

bkm
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -