会心の一撃
深深と冷える暗闇の中 ボクと森下さんは佇んでいる。吐いた息は白く染まって肺から身体全身を冷やす程だ。
冬間近、夜の冷え込みが酷くなってきた。ボクは冬休みが憂鬱で堪らない。森下さんと一緒にいれる理由が無くなるから。

「森下さん、冬休み中に帰省の予定はある?」
「ないよ」

ボクと違って大人しい声色で要点だけ短く丁寧に吐き出された君の言葉に、僕は目を細めた。ふうん。

「ボクと遊ぶ予定は?」
「狛枝くんと?ないよ」

ふふ、と笑い混じりに森下さんはボクを拒絶した。ふうん。

「じゃあ予定を全部教えて」
「気が早いね」
「だってボクの幸運で森下さんが他の人と遊んでる姿を街中でうっかり見るのは嫌でしょ?だから仕方ないね。君の予定に合わせてボクは引きこもりと化そう」
「そうなんだ」

上の空で君は寒さで赤く染まった指先をコートのポケットに突っ込んだ。森下さんの手を寒さから守る役割を任せられるなんて、とても羨ましいポケットだ。ボクの手で森下さんがボクの体温を受け取ってくれるならいいのに。出来ないだろうけれど。

「狛枝くんは面白いね」
「君に笑って欲しいからね」
「赤ずきんの狼みたい」
「男は狼なんだよ、森下さん?このまま送り狼になるかもね」

がおー、と鳴いてみるけれど、君は笑顔で頷いた。どういう意味だろう。考えてもどうせわからないから諦めた。

「ねえ、本当に「狛枝くん」

言葉を遮られた。いつも大人しく囁くような言葉を紡ぐ森下さんにそんなことをされたのは初めてだったから、ボクは黙り込む。

「あのね…冬休みにね、狛枝くんと会いたいな」

その言葉がボクに与えた衝撃たるや!!
いつもよく回る口から音を奪ってしまった。

冷たい風が火照り出した体を嬲る。ボクの心は熱を冷ますより君の熱に浮かされたがってる。
そして君の甘い言葉に火照らされて溶けたい。
繰り返し繰り返しそうしていれば、ボクは少しは君に馴染めると思うから。

まずはウロウロとさ迷わせて冷え切ってしまったボクの手を君の温い手と絡ませる事から始めようか。


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bkm
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