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「狛枝くんは綺麗な手をしてるね」

手に汗がにじむ程緊張しながら、やっとそう言った。私は息をなんとか吐き出して、本棚を見つめている。

「君が今見てるのは本棚だけど、もしかして本棚をボクだと思ってる?残念だけどボクこんなに大きくないよ、心も体も」
「は、恥ずかしくて」
「どうして?」

どうしてって。困りながら本棚から窓に視線を移す。南国の陽射しを通す窓ガラスに映る人影。白い柔らかな髪が無造作にはねている。

「君ってたまにボクのところに来ては毎回その調子だよね」
「ご、ごめんなさい…」
「いや別に謝ってほしい訳じゃないんだけどさ」

次は床を眺める。謝る理由も解らずに頭を下げた私にきっと狛枝くんは呆れている。
だって本当は、本当に思ったことしか口にしてない私を、自分で勝手に論破する場面じゃなかったから。
狛枝くんはいつだってまともに真面目だ。
独善的な言葉で意地悪を言いながら距離を取るくせに、お出かけチケットを渡せば素直に受け取って一緒に自由時間を過ごしてくれる変な人。
見つめなきゃ。ちゃんと私が、狛枝くんを。
感じなきゃ。嫌なことも幸せなことも、全部全部。
そうしてやっと、きっと伝えられるんだ。

「...私」
「うん」
「やっぱり謝らなかったことにしたい。狛枝くんを、好きだから」

やっぱり恥ずかしい。いくらなんでも急過ぎたよね。
だけど胸が軽くなった。解けなかった謎が理解できた後のようにスッと。

「...やっとボクの顔、見てくれたね」

狛枝くんは微笑んだ。これは私の希望を込めた眼差しが、勝手に微笑みだと認識した彼の「線引きの笑顔」かもしれないけれど。だけどいい。だけど、いいよ。

「君があまりにボクの顔を見ないから。君があまりに僕の手や声や肌の白さばかりを指摘するから。顔が見たくないから言ってるのかと思ってたよ」

片目を閉じて額に手をあてながら狛枝くんが言う。
その言葉に反論するよう、私の視線が逃げないよう、私は狛枝くんでいっぱいだ。
こんなに狛枝くんを見つめている。こんなにも。
軽くなった胸が痛くなる。駄目でも嫌われてもきっとずっと好きなんだと知ってしまった。辛くてたまらなくて、視界が滲む。

「泣かないでよ」
「......だって」
「だって?」
「きっと狛枝くんの特別にはなれない」
「あはは、どうして君が決めるのさ。ゴミクズのボクには自我も認められてなかったのかな」
「顔に書いてあった」
「ふぅん...じゃあさ」

いきなり右手が掴まれる。ビックリして肩が震えた。待って待って狛枝くん今私の手は汗でびっしょりだよ。

「君が書き換えてよ。ボクの顔に、森下さんが好きだって書いて」

狛枝くんはそう言って頬に私の手を添える。滑らかな肌はあたたかくて、本当に生きてるんだと頭の奥底で思った。
私で幸せになるならそれがいい。
伏せられた長い睫毛が震えるのを眺めながら、私はそっと薄い唇にキスを落とした。


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