目を覚まし、昨日の出来事が夢であればと願う。半パンから覗くヒザには大きなばんそうこう。それを無視して制服に着替える。着替え終わると私は机に向かった。
引き出しから便せんとペンを取り出し、“赤司君へ”と書き込む。毎日の習慣だったのに夏休みに入って、書く事をやめていた恋文。想うだけで満たされた私の王子様。その想いを書かなきゃ。私の幸せ。



いつもより速くに家を出てしまった。あぜ道を通って林道にさしかかる。林道を抜けた所で赤司君と出会った。

「「あ」」

気まずい空気が流れる。お願い否定して、そしたら私は信じるから。私の夢を崩さないで。

「...昨日の事なんだが」「何?」
お願い。
「本当に済まなかった」「え?」
女性に...しかも君にあんな怖い思いをさせてすまない
厳しく注意したから
彼らも普段は真面目なのだけど祭りが近いと言う事で気分が高まってるみたいで

突きつけられた現実を私の耳は受け流していく。

「皆には黙っていてほしい。頼む。」
そう願われて何と答えたか忘れてしまった。「ありがとう」と赤司君がひきつった笑顔で返事をして先に行ってしまったから、了解の意を伝えたのだろう。涙は出なかったが気持ち悪かった。
担任の先生に宿題を渡して早退の願いを告げる。見送りをつけるという気遣いを断り、登校する生徒の間を逆に進んで帰った。

家に帰りベッドに飛び込む。お父さんは仕事でお母さんはカバンと靴がなかったから市場に買い物へ行ったのだろう。飛び込んだ拍子に擦れたヒザが痛んで身を丸める。スカートからのくしゃっという音に起き上がってポケットを探った。出てきたのは“赤司君へ”とだけ書かれた空白の便せん。それから目を逸らし直すため乱暴に開けた弾みで全てひっくり返った引き出し。散らばり足元を埋める便せんたち。
「嘘、私いつの間にこんなに」
一つ一つ丁寧に書かれた文字の上を目が滑る。
“好き”“優しい”“真面目”“王子様”“親切”“かっこいい”
何一つ心に残らない綺麗な言葉を並べただけの手紙の上に真っ白な便せんを叩きつける。
『悪いっつーかその手紙から想いが全く伝わってこねー』
ポツリと一つ落ちた涙。濡れた手紙を掴んで破る。再びこぼれた涙に濡れた手紙を破る。勢いよく動いた拍子に落ちた涙に濡れた手紙をまた破る。そのうち涙が落ちたとか関係なく手に当たった手紙を全て破っていった。
泣き過ぎて腫れた目が熱を持って痛い。
速く帰宅した私に驚いたお母さんがトビラの外から「どうしたの?」と尋ねてきたけど 宿題だけ提出して先に帰った と言えば納得したように「今日のお昼はオムレツよ」とまた私の好物を言ってキッチンへ行った。お母さんに心配をかける訳にはいかない。私はそのまま声を押し殺してしゃくり続けた。



どれくらいそうしただろう。紙屑と化した手紙の中仰向けに寝転がって ふーっと息をつく。あれ程泣いたくせに思ったほど辛くない自分の気持ちに何故だろうと眉をひそめる。そして浮かんだ笑顔と大きな手に目を見開く。
どくどくと鳴る心臓。

━━━嘘でしょこの気持ちって━━━

「圭〜。お友達の青峰君が来てくれたわよ」
お母さんの言葉に飛び起きる。
(まずいっ)
「お母さん、今しんどいから会えないって言って」「え?」
(まずいまずいまずい、こんな時になんで)
「もう上がってもらっちゃったわ。顔くらいいいでしょ。青峰君どうぞ」「うーす。お邪魔しまーす」「はいごゆっくり」

━━━今青峰の顔見たら...きっとこの気持ちから逃げられなくなる━━━

ガチャリと開いたトビラから逃げるようにベッドに飛び込みタオルケットにくるまる。
「森下、サボんなっつただろうが...って何だこれ?」
ガサガサと紙屑をかき分けてやってくる。
「これって、あの手紙じゃ...」
タオルケットの中震え続ける。お願い。来ないで。

━━━この想いにはっきり気づいてしまう━━━

「森下?泣いてんのか?大丈夫か?顔見せろ」
無理矢理はがされたタオルケット。心配そうにこちらを見る深い青色の瞳と目が合って
ドクン
━━━......ああ この気持ちはやっぱり...━━━

「目、腫れてる。なんか辛い事あんのか?相談乗るぞ?」
不安気な顔に笑顔で答える。
「けじめつけてただけ」「けじめ?」「恋のね」「赤司か?」「まぁそんな所?」「ふーんタイミングいいな」「どういうこと?」「え?あーあーいや、それはそのアレ、アレだ!明日の祭りって恋愛成就があんだ」「伝統のお祭りが恋の神様なの?」「他にも家内安全とか子孫繁栄とかあるけど、まー恋愛が大きく出てるな」「そうなんだ」
今まで努力して来たお祭りの事を詳しく知らないなんて何やってんだ と心の中で自分につっこむ。
「だから島の外から 観光客いっぱい来るぜ。女が多いけどな」
おっぱい大きいねーちゃんこねーかなー とつぶやく青峰の頭を枕で叩く。
「いてっ何すんだよ」「このガングロエロスケ!」「その呼び方やめ。あ、あとな祭りの踊り手になったら 太鼓の音が止まったときに好きなヤツの名前叫ぶと両想いになんだと」「すごい伝統だね」「いや、伝統じゃなくて噂話の派生だけどな。学生に手伝わせるから話しにオマケついて広まったんだよ。ある意味告白の場になっちまったな」「なーる」「でもオレは信じるぜ」「どうして?」
青峰は真っ直ぐ私を見て言った。
「オレもその話に乗るからだ」




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