老朽化の進む公民館の蒸し暑い廊下を布を抱えて歩く。
「さつきちゃん!持ってきたよ!」
扉を開けると冷たい空気が身を包んだ。生き返る...。
「ありがとう、早速型に合わせて切ろう!」
唯一冷房の効く部屋で法被作りの作業開始。
「本当 巨神兵たちのせいで作業増える」
愚痴を言っても手は動かす。細かい作業は得意だから。
元々この作業は毎年使っている法被のほころびを使えるように直すだけで終わりらしいのだが190越えが三人。しかもそのうち一人は2メートル越え。着れる法被が無いのだ。因みに黄瀬は189cmでつんつるてんだが我慢してもらう事にした。
(時間があれば作るからな、黄瀬!)
「赤司君には助けてもらったよー」「ふふ、法被作らなくていいもんね」「そうそ「それは背が低いって言う遠回しな嫌味かい?」
相づちの途中に聞こえた声に慌てて振り返ると汗だくな皆が入ってきた。
「僕への嫌味でもありますよ」
黒子も赤司君の背後から顔を覗かせる。
「いや、でも、二人とも男子高校生の平均より高いし、あいつらがおかしいだけだよ」
と指さす。
「あっちーっおい さつきぃお前こんな涼しいとこで作業とかずりぃぞ」
「涼しい!生き返るッス」
「全く その通りなのだよ。汗が止まらん」
「アイス食べたーい」
「皆 櫓作りお疲れ様。クーラーボックスに冷えた飲み物あるから一度休憩してね。」
さつきちゃんの言葉に わぁーっ と1ヶ所に群がる光景は少し恐怖だ。
「30分後に踊りの先生が来てくださるからそれまで休憩だ。」
赤司君の言葉に はーい と返事が上がる。
「それまでに私たちも出来るとこまでやろっか?」「そうだね」
巨神兵のために法被作りを再開。



「へぇ、速いものだね」「そうかな?」
形だけは整った法被をとりあえず青峰に着せると赤司君が感心したように言ってくれた。
「後は細かい所をまつるだけだよ」「手先器用だね」「あ、ありがと...」「先生が来てくださったみたいッスよー」
トイレに行ってた黄瀬の声が廊下から聞こえた。
「よし、みんなホールに移動しろ」
扉へ向かう赤司君を見送り、
「ほら 法被脱いで」
と青峰を急かす。
「よかったな、赤司に褒めてもらえて。オレに感謝しろよ?」「...そうだね」

━━━けど...最近の私は...変なんだ━━━

わしゃわしゃと頭をかきまわす大きな手から逃げるように離れる。
胸が痛い けど発作の痛みじゃない
鼓動が速いけど発作のせいじゃない

「森下?」
青峰の手が中途半端に上がっている。
「は、速くホールに行こう。先生や皆待たせちゃ悪いよ」

━━━いつもどおり━━━

「......おう...」

━━━今までどおり━━━




「痛っ」
ガンッと激しい音を立てて私の手から離れた棒を床に落ちる前に青峰が拾い上げる。
「まーた同じとこで失敗してんのかよ」
呆れ顔から目を反らし、棒を受け取り
「普通 こんなのすぐに出来る方がおかしい」
と口を尖らせた。
踊りは予想していたものより難しかった。身長の半分ほどの長さの松明を決められた動作で振り回す。今は練習なので木の棒を代用しているが 本番は先端に火を付けるそうだ。絶対無理。
「オレはできたぞ」「青峰は運動神経いいから」「黄瀬も緑間も紫原だって」「皆センスあんじゃん」「赤司」「赤司君が失敗するのなんか想像出来ない」「確かに」
隅の方でぶつけながらも互いにアドバイスし合って練習するさつきちゃんと黒子を見る。さつきちゃん相変わらず反応かわいいなぁ。私もあんな風に受け答えできればかわいいって思ってもらえるかな?
(それは誰に?)
一番に浮かんだ豪快な笑顔に自分自身でとまどった。
「わっ私 やっぱり踊りは無理かな?裏方の方で頑張「練習始めて数十分しかたってないのにあきらめんな」
視線を合わせるように頭を撫でようと伸ばされた青峰の手から逃げる。
「なぁこっち見ろよ。さっきからそっぽ向いてどーしたんだ?」「どうもしない!!」「いや、なんか今日変だぞ?」


━━━私どうしてたっけ?━━━

「変じゃない」「いや変「10分休憩取るよ。各自しっかり水分補給するように!」
赤司君の言葉に助けられた。追求から逃れるため 水筒の元へ。


お茶を飲み終え、さつきちゃんに話しかけようとしたが 黒子と二人仲良く話している所に割り込むのは野暮かと背を向ける。
「圭ちゃーん!」
呼び止められて振り返るとさつきちゃんが手招きしていた。お言葉に甘えて彼女の隣に座る。
「思ってたよりハードだったねー」
ポニーテールを揺らし、さつきちゃんが参ったー と言いながらお茶を飲む。
「僕もう手が痛いです」
黒子はリストバンドで首筋の汗を拭った。
「何話してるんスかー?オレも混ーぜてっ」
黒子の隣に黄瀬が座る。
「踊りの話しをしてたんです。」「あぁ意外と楽だったスね」「うざいです。」「ひどっ!?」
びーっと大げさに泣く黄瀬を呆れながら見ていると
「うるさいのだよ 黄瀬」「誰かお菓子持ってなーい?」
緑間と紫原もやって来て黄瀬の隣に座った。
「あ!むっくん、おやつならあるよ。待ってて」
さつきちゃんがどこかへ駆けて行く。
「何かなー アイスだといいなぁ」
子供のように目を輝かせ さつきちゃんの背を見送る紫原に
「アイスじゃないけど冷たい物だとは思うよ」
と教える。
「どーして知ってるの?」「飲み物を入れてあったクーラーボックスの中にタッパーが入ってて、何?って聞いたら 手作りの差し入れだって」
瞬間、ピシリと固まった空間。どうしたの?と聞こうとすると
「皆固まってどうしたんだい?」
赤司君が紫原の隣に座る。
「さっちんの差し入れはやだなー」「差し入れ?」
赤司君の顔色も悪い。
「さつきちゃんの差し入れ、何かやばいの?」「桃井さんの料理は...その、なんというか、個性的...独創的と言うか」「すごく包んで言うね」「さつきのアレを料理と言うのか?」
上から降ってきた声にびくりと体を震わす。熱を持ち出す頬に いつもならこれは赤司君のときの反応なのに とパニック。青峰が赤司君の隣に座る。円を描くように座っていたので 青峰の隣は私だ。 とんっ と軽く触れた右肩が声が聞こえたときよりも激しく揺れた。
「なんとかさつきの爆弾処理しねーと」「オレらの身の危険ッスよ!!」「さすがおは朝。大当たりなのだよ」「みどちん何だったのー?」「友人からの差し入れに要注意。ラッキーアイテムはタッパーなのだよ」「自分の分は持って帰るつもりですか?」「そうだ」「絶っっ対食べないッスよね!!?」「おい、森下!お前もさつきの爆弾処理方法考えろ!」「...あ?...うん...」

━━━私どうしてたっけ?今まで青峰にどう接して来たかわからない。
さっきから右側が熱くて━━━

「あ!みんなそろってるー。レモンのはちみつ漬けだよ!冷えてるからおいしいと思うな」「だーら何で丸ごとなんだよ!?」「皮にも栄養あるからだよー。さっ召し上がれ♪」「もっ桃井、折角だがオレの分はこのタッパーに入れてくれ」「みどりんのタッパー使わなくてもまだまだたくさんあるから私のやつそのままあげるよ。いっぱい入ってるのにするね」「う”っ」「緑間ザマァ」「大ちゃんもどうぞ」


━━━あぁもうみんなの会話すら耳に入らない━━━

「げっ、あ ホラ森下 さつきの手料理食べるの始めてだろ?先食べろよ」
パシン
乾いた音が響く。
はっと目を見開くと皆きょとんと私を見ていた。青峰の中途半端にこちらに伸ばされた腕とヒリヒリ痛む手の平に手をはたいてしまったのだと気づく。
「私 ちょっと外出てくる」
視線から逃れるようにその場を後にした。

しゃがみこんで大きく息を吸う。
(私、やっぱり変?)
頭なでられるくらいいつもの事だ。
(私、今までどうしてた?普段何考えて過ごしてた?何だか 頭の中が青峰で埋め尽くされて 体まで熱っぽいし 息苦しくて言う事きかなくなるし...
今までは赤司君にだったのに)


━━━...なんでだろ...これじゃまるで...恋してるみたい━━━


「......え」

━━━...この気持ちって━━━

「違うありえない!なんで私がガサツでエロでお節介焼きなアイツをっっ痛っ」「イッテっ」
立ち上がった瞬間頭に感じた衝撃。見上げると青峰がアゴをおさえて悶えていた。
「急に立ち上がんなよ!」「ごめ」「まぁいい。速く戻んぞ。練習再開だってよ」「うん。」
広い背中を追いかける。さっきまでの緊張感はない。
(やっぱり勘違いだったか)
セミの鳴き声が蒸し暑い廊下に響く。




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