祭り当日の朝。破り捨てた手紙を詰めた袋を持って家を出る。
「行ってきまーす」「いってらっしゃい頑張ってね」「始まったらカメラ持って応援しに行くからな」「私はお客さんの誘導するだけだよ」
お父さんとお母さんに笑って手を振る。ガサガサと音をたてる袋を持ち直して広場に向かう。あんな小さな引き出しによくこれだけ入ったものだ。ま、破ったせいで体積が増えたと言うのもあるだろうが。

「おー来た来たー」
青峰が私を見つけて片手を上げた。「こっちだぜ」腕を引かれた先にはキャンプファイヤーのように燃え上がるたき火があった。あまりの大きさに口をポカンと開ける。この周りを松明を振り回して踊るのか。
「すげーだろ?オレらもこれ組み立てんの手伝ったんだぜ」「お疲れさまー」
本当にお疲れさまだよ。男子組の皆。じわりとにじみ出した汗に「暑いね」と拭うと「祭り始まったらもっとあちーよ」と笑われた。辺りを見渡し、人がいないのを確認して火に近寄る。互いに目配せして頷きあい 私は手紙の残骸を 青峰は雑誌のような物を火の中に放り込んだ。
「青峰 何燃やしたの?」「マイちゃんの写真集」「なんで!?」「宝物だからに決まってんだろ。お供え物だお供え物」「サイテー」
近くで火の燃え盛る音とセミの鳴き声。遠くで金槌の音が聞こえる。屋台を建ててる音だろうか?
「今日が本番だね。」「おう、夏の努力を見せる日だぜ!」「青峰は告白だね」
にししと笑い脇腹をつついた。誰なのか聞きたいけどショックを受けたくないから黙っておいた。私の恋は二度連続で失敗している。
「あーそれなんだけどよ」「ん?」「お前客誘導だよな?」「うん、火に近づきすぎないように監視してるよ」「じゃ、なるべくオレのそばにいろ」「なんで?」「なんでって...」「あ、圭ちゃんいたいた。はやくー法被に着替えるよ」「うんわかったさつきちゃん。今行く!とりあえずアンタのそばにいたらいいんだね?」「おう...」「じゃあ頑張って!!」



さつきの元に向かう森下の後ろ姿に
「なんだよアイツ、普通気づけよ」
とぼやく。
「ま、よろしく頼むぜ神様」
気持ちを切り替え、自分も着替えるため公民館に向かった。



「わぁー圭ちゃん似合うっかっこいい!!」
抱きついて来るさつきちゃんのどこに触れていいのかわからない。女同士なのに? とか言わないでいただきたい。何と言う格差社会...。ハチマキを締め、肩までの法被。下はサラシ、膝丈のズボンに足袋。露出多いよ。
「さつきちゃん、変な虫つかないよう気をつけてね」「それは圭ちゃんもだよ!」
いやいやさつきちゃんの方がいろいろやばいんだから。
ドアのノック音と
「準備はできたかい?」
と言う凛とした声。
「赤司君。ばっちりだよ!」
さつきちゃんに手を引かれ外に出る。こちらも法被姿の凛々しい赤司君が立っていた。
「へぇ、様になってるね」「ありがとう。あ!私 テツ君の法被姿見たいから先行くね」
二人残され再び気まずい空気になる。無言を壊したのは赤司君だった。
「絶対成功させよう」
その瞳は私に祭りへの意気込みを語ってくれたものと同じで。
「うん!一緒に頑張ろう!!」
あの時言えなかったと後悔した言葉を今伝えれた。


セミの声と人の慌てたやり取りの喧騒の中考える。私の願望に赤司君を無理矢理押し込めてたんだと。赤司君の事をちゃんと見ずに、理解もせず 勝手に理想の中に閉じ込めて落胆して、私はなんて失礼なんだろう。
「赤司君が優しくて真面目な事は変わらないよね」
窓に映った私の顔は今日の天気のように晴れやかだった。




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