「なんということでしょう!」

さながらそれはビフォーアフターのようでした。





Ep.2 The Pool of Tears
―涙の池―














そのケーキを平らげた途端、私の体はぐんぐん大きくなっていきました。頭が廊下の天井にぶつかったので、推定3メートルはあるでしょう。私は直ぐ様テーブルの上の小さな金色の鍵を取りました。

「鍵は取れましたが…これではこの扉を通れません!」

私はなんだか虚しくなりました。このまま帰れなくなったらどうしようとか扉の向こうのお庭に行きたかったなど色んなことを考えてしまい、また泣き出してしまいました。

「うぅ…どうすればいいんですかぁ……」

目元が赤くなるほど泣いた結果、気がつくと周り中が大きな池になっていました。深さは10cmぐらいで、廊下の半ばまで続いています。
と、遠くから足音が聞こえました。私は慌てて涙を拭いてその方向を見ると、立派な服に着替えた兎元親さんが、右手に白い手袋、左手に大きな扇子を持ってこちらに急いで走ってくるではありませんか!

「あぁぁ公爵夫人を待たせたりしたら情け容赦もありゃしねぇ!」

私は色々と切羽詰まっていて、誰でもいいから助けて欲しいと思っていました。そこで私は元親さんが近付いてきた時に、小さな声で言いました。

「あの、元親さん、お願いですから――」

すると元親さんは「おひゃあ!?」と飛び上がり素っ頓狂な声を上げ、手袋と扇子を落として暗闇の中へ駆けていってしまいました。

「あちょ、元親さぁん!」

元親さんが去った方向を見て溜め息を着いた私は、一旦鍵をテーブルの上に置いて元親さんが落とした手袋と扇子を拾いました。廊下がとても暑かったので、拾った扇子で勝手ながらも自分を扇ぎました。

「元親さんの薄情者!人でなし!困った人を捨て置くなんて人間としてどうなんですか!…あ、でも今の元親さんは白兎なんでしたっけ……まぁどっちでもいいです!それに声をかけただけなのに逃げるなんて失礼極まりないです!」

私はぷんぷんと怒りながら、もう一度深い溜め息をつきました。

「あーあ、もうここに一人でいるのは飽きちゃいましたよぅ……そりゃあ確かに今の私は大きくてびっくりするかもですけ…ど……?」

こう言いながらふと自分の手を見下ろしてみると、驚いたことに元親さんが落とした白手袋が手にはまってしまっていました。

「どうして手袋がはまるんでしょう…?…あっ、私いつの間にか小さくなってます!」

気付けば身長60cmぐらいになっていて、今も縮み続けています。やがてその原因が扇子だと気付いて、私は慌てて扇子を落としました。その頃には既に身長40cmになっていました。

「あ、危なかったぁ…危うく消えてしまうところでした…」

ほっと息をつき、次に私は早速扉の向こうの綺麗なお庭へ行こうとしました。しかし、

「あぁあっ!鍵!」

先ほどテーブルの上に置いた鍵が、今の身長では届かないのです。これではさっきの二の舞です。

「んもう私の馬鹿っ!元親さんより私の方が馬鹿でした!」

そう毒づいた瞬間私は足を滑らせて、ぼちゃん!顎まで塩水に浸かっていました。

「あんなに泣かなきゃよかった!このままでは私の涙で溺れちゃいます!自分の涙で溺死だなんて…笑い話にもなりませんよ!」

その時、少し離れたところでばちゃばちゃと音が聞こえました。何だろうと思い泳いでいってみると、それは私のように滑ってこの池にはまってしまった…


「……蘭丸くん?」


ネズミ耳の蘭丸くんでした。

「兎元親さんの次はネズミ蘭丸くんですか…」

蘭丸くんは濃姫先生(私の高校の担任の先生です)の息子さんで直接会ったことはありませんが、一度写真を見せてもらっていました。因みに今中学二年生だとか。
取り敢えず、私は蘭丸くんに話し掛けてみました。

「蘭丸くん、この池から出る道をご存知ですか?私ここを泳いでて疲れちゃったんです…」

しかし蘭丸くんは探るような目で私を見るだけで、言葉を返してくれません。

(…そういえば、濃姫先生は蘭丸くんが猫嫌いだって言ってましたっけ…)

今思い出すことではありませんが、蘭丸くんが丁度ネズミなのでふと思い返してしまったのです。

「あのう…蘭丸くんて、やっぱり猫は嫌いなんですか?」

この質問なら答えてくれるだろうと思い聞いてみれば、予想以上に蘭丸くんは反応しガタガタ震えだしました。

「猫は嫌いかだって?」

水面が揺れるほど震える蘭丸くんは、あきらかに怯えています。

「ネズミが猫を好きなわけないだろ!蘭丸自身も猫は大嫌いなのにさ!あんな生き物の名前なんて二度と聞きたくないね!」

「そっそうですよね!ごめんなさい!」

私は慌てて話題を変えました。

「では犬はお好きですか?私の家の近くに犬がいるんですけど、とっても可愛いんですよ!芸達者だしお利口さんだし!それに番犬としても活躍してるそうです!なんでも、空き巣を追い返したり泥棒さんを捕まえたり…あ、あと入ってくるネズミを殺したり!……はっ、しまった!」

完全に怯えた蘭丸くんは、私から離れようと遠くへ泳ぎ出していました。おかげで池には波が立っています。

「ら、蘭丸くん!戻ってきてください!もう猫のお話も犬のお話もしませんからぁっ!」

すると蘭丸くんはぴたりと止まり、方向転換してゆっくりとこちらに泳いできました。顔は真っ青です。

「…岸に行こう。そしたら蘭丸の話をしてあげる」

そう言って蘭丸くんは泳ぎ出しました。私も後に続きます。気がつくと、周りには池にはまってしまった動物達(人達?)が入ってきて混んできていました。




To be continued...
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