「え、おま、何で…」
「政宗殿こそ、何故ここに…」

お互いを見て目をぱちくりさせる幸村と政宗。それもそのはず、戦国時代に相討ちした相手が、今ここに居合わせているのだから。

「何だお前ら、知り合いか?」

そんなこととは露知らず、利家は朗らかに笑う。愛想笑いを浮かべた政宗は幸村を後ろに向かせ、自身も利家に背を向けて小声で言った。

「…話したいことは山ほどあるが…その前にこいつだ…」
「…うむ…どこからどう見ても前田利家殿にござるな…」
「あぁ…お前に会うまでは全く気が付かなかったぜ」
「某も、政宗殿を見るまでただの教師だと思っておりました…」
「何だ何だー?二人で内緒話か?」

背を向けたままの二人に、利家は明るく声をかける。

「…俺達が全くわかんねぇみてぇだな…」
「そうでござるな…一度、前世の記憶が戻るか試してみまするか?」
「…やってみよう」

幸村と政宗は利家に向き直り、彼に語り掛けた。

「Ah…突然なんだが、俺達のことを覚えてねぇか?前田利家」
「は?何のことだ?その前に、先生を呼び捨てしてはいけないぞ」

利家の注意を無視した政宗は幸村に目配せする。そして幸村は、自身の前世を語った。

「某の名は真田幸村。甲斐の虎であるお館様…武田信玄の一番弟子にて侯」
「ん?どうしたんだ真田?いきなり固くなって」
「俺は奥州筆頭伊達政宗。独眼竜と呼ばれた男だ」

続けて政宗が前世を語ると、また「え?」と首を傾げた利家だったが、漸く何かに気付いたようだった。

「…真田…幸村……伊達…政宗………………あぁああぁ!!?!?
「やっと気付いたか…」

やれやれという風に肩を竦める政宗。

「思い出しましたか?」
「あぁ…思い出した……それがしは加賀を治める前田利家だ…甥に慶次がいて…そして妻に………まつぅぅうううう!!!
「はい、何にござりましょう犬千代様?」

利家がまつの名を呼んだ途端、政宗と幸村の後ろからひょこりと現れるまつ。

「うわっ!って……アンタ前田利家の妻じゃねぇか。アンタもここにいたのか?」
「というか、前世の記憶があったのでござりまするか?」

二人からの問いに、まつはにこりと笑って言う。

「前世の記憶は貴方がたが職員室に入って来た時に戻りました。ちなみに私はこの高校で家庭科を教えております」

まつは、政宗と幸村を見た瞬間に前世の記憶が戻ったらしい。

「流石、でござる」
「こいつとは大違いだな」

政宗に言われ、がははと豪快に笑う利家。

「そういや、アンタらは現世でも結婚してんのか?」

政宗からの問いに、利家はまつの肩を抱いた。それを見た幸村は小さく「破廉恥っ」と呟いて目を反らす。

「あぁ!それがしがこの学校に来た時にまつに一目惚れしてな」
「何故か私も、記憶はないのに犬千代様に惹かれてしまって…」

ぽっと顔を赤らめるまつ。記憶が無くても、前世の力に惹き付けられたのだろう。

「それはそうと、今考えてみたらそれがし達の他に知ってる奴が先生になってるぞ」

政宗と幸村が職員室を見回すと、確かに見知った顔がちらほら見受けられた。

「例えば…ほら、あそこに座ってんのは古文担当の上杉殿」
「その隣には英語担当のザビー殿がおりますし」
「向こうには数学担当の松永殿もいるぞ」
「あちらには日本史担当の島津殿もいらっしゃいますよ」

島津殿、と言われた瞬間に目を輝かせた幸村。

「島津殿!あの方もここにいらしたとは…!」
「Hey真田、お礼を言いに行くのは後からにしな。前田、そろそろ朝のhomeroomに行かなきゃならねぇんじゃねぇか?」

政宗の言葉に利家が時計を見ると、確かにもうすぐホームルームが始まる時間だった。

「おっと、そうだったな!じゃあ取り敢えずクラスに行こうか!それではまた後でな、まつ」
「はい、犬千代様」

利家は笑顔でまつを見送ると、さぁ行こう、と職員室を出た。と、政宗が神妙な面持ちで利家に問い掛ける。

「……前田、一つ聞いていいか」
「ん?何だ?」
「…この学校の校長は、誰なんだ?」
「あ、某も気になっておりました」

二人に問われて暫く考える利家。そして思い出し、「あっ」と声を上げた。

「思い出した!織田信長公だ!」
「……だよな」
「……へ?」

やっぱり、という顔をする政宗と、信じられない、という顔をする幸村。

「んで、秘書が妻の濃姫殿だったな…ってどうしたんだ二人共」

校長に会ったら一貫の終わりだ、と思った政宗と幸村は、利家の言葉に力無く笑うだけだった。




校長はサンタクロース(笑)
(本当は魔王〜)






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