「……生きてるか…真田幸村……」
「…勿論で…ござる…」
伊達政宗と真田幸村は、平野に血塗れで倒れていた。周りには戦いに敗れて屍となった二人の部下が沢山転がっている。
幸村が武田軍の総大将となって数年後、武田信玄は幸村に武田の未来を託し世を去った。武田軍を背負った幸村は数々の戦いで勝利を収めたが、その戦いの途中で、一番の理解者であった猿飛佐助を失った。悲しみに暮れる幸村であったが、信玄が叶えられなかった天下統一を果たす為に、永遠の好敵手である伊達政宗に戦いを挑んだ。政宗も片倉小十郎を失ってからは生気をなくしていたが、幸村に戦いを挑まれ気を取り戻したらしく、壊滅寸前であった伊達軍を鍛え直し、幸村との勝負に備えたのである。
「お前……強くなったな…」
「政宗殿こそ…一段と…お力をつけたようで…」
二人はお互いぼろぼろになるまで、剣を、槍を奮った。そして同時に最後の一太刀を浴びせ、同時に地に伏せたのだった。
「……皆…いなくなっちまったな……前田の風来坊も、上杉の軍神も、北条のじじいも…」
「…前田利家殿も…まつ殿も…浅井殿も市殿も…織田信長は、とうの昔に某達が討ち取りましたな…」
「そうだな……長曾我部元親は、毛利元就と相討ちしたらしいぜ…俺達みたいにな…」
二人は既にいない者達のことを想いながら、蒼く澄み渡る空を見上げた。
「そうで、ござったか……ッ島津殿は…某に勇気を与えてくださったお方であった…もう一度会って、礼を言いたかった…」
「…俺もよ…いつきを守るって約束したのに…守れなかった…」
悔しさから拳を握り締める二人。が、その力も殆ど残っていなかった。
「………某達は…死んだら…どこへ行くのであろうか…」
「普通に考えたら天国だろ……」
「その天国に行けば…お館様や佐助に会えるだろうか…父上や、母上や、兄上にも…」
「会えるさ……俺は一番に…小十郎に会いてぇがな…」
「……某は…それがしは…みなに…会いとうござる…」
幸村は静かに涙を溢した。政宗はそんな幸村をせせら笑うが、彼の左目にも涙が浮かんでいた。
「Ha…なに、泣いてんだよ…」
「…政宗殿こそ…」
二人で小さく笑い合った後、辺りは静寂に包まれた。いつの間にか、西の空が紅く染まっている。命が尽きる時が近付いたのを悟ったのか、政宗は最後の力を振り絞って幸村に言った。
「……さな、だ…ゆきむら…俺は……おまえに…出会えて…本当に…よかった……っうまれ、変わっても…お前と…また…出会いてぇ……」
「…それがし、も……政宗殿と…好敵手…として…お会いできて…しあわせに、ござりました……」
途切れ途切れになりながらも、想いをぶつける二人。とうとう目の前が霞んできた。
「……今度は……戦がねぇ…平和な時代に…うまれてきてぇな……」
「…そのときは…政宗殿と…皆と…いっしょに…笑いあいとう…ござる…」
「……だな…」
そして二人は、静かに目蓋を閉じた。穏やかな笑みと、一筋の涙を残して。
『また…来世で…』
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