いきなり出てきたかすがと風魔にこしょこしょと軽く説明した佐助。忍なだけあって、二人は即座に状況を理解した。
姉
子分達がバタバタと忙しなく走り回っている中、夏希は先程家の案内を頼んだ昴と辰之助にかすが以外を任せた。
「そこのお姉さんは私が案内する。お前らは他の客人の案内をしろ」
『へいッ』
「では、行きましょうか」
夏希はずんずんと自分の部屋へ歩いていき、かすがを中に入れると襖をぴしゃりと閉めた。そして襖の取っ手に手を掛けたまま俯いて動かない夏希を見て、不審に思ったかすがが声をかけた。
「………おい、お前…」
すると夏希は物凄い速さでかすがの手を取り、先程のクールな姿から一変、キラキラした眼でかすがを見て言った。
「お姉ちゃんと呼ばせてもらってもいいですか!?」
「………は?」
「お姉ちゃんが嫌なら姐さんでも姉貴でも構いません!!あ、寧ろかっこよく姉御とか…」
「ちょ、ちょっと待て!」
かすがは興奮する夏希を制した。
「と、取り敢えず、名前を教えてくれないか」
「あっ、すみません!えと、あたしは鈴之内夏希と申します。事情はさっき猿飛さんから伺ったと思いますが…」
「あぁ。少しだけ聞いた。だがまだ少し混乱しているな…」
かすがは腕を組むと、聞きたいことが幾つかある、と夏希を見た。
「まず一つ。先程佐助から、私達はここに置いてもらえると聞いた。本当に大丈夫なのか?」
「はい、全然大丈夫ですよ?」
「…そうか。では二つ目。どうして『お姉ちゃん』と呼びたい?」
「一人っ子だったし周りは野郎ばっかだったので、お姉さんに憧れてたんです!それに姉御肌っぽいなと思いまして!」
「……姉御肌なら孫市の方が…いや、何でもない。では最後に…これはどうでもいいんだが、一人称が先程と変わったのは何故だ?」
「それはですね、野郎共の前では強い頭である為に、死んだ父から一人称は『あたし』ではなく『私』にしろって言われてきたんです。けど、今までの癖なんてそう直るもんじゃないんで、野郎共がいない時は『あたし』って言ってるんです。さっき武将さん達に挨拶した時は礼儀として『私』って言いましたけど…かすがさん、でしたよね?かすがさんを前にしたら素が出ちゃいまして…」
かすがからの質問にぽんぽんと答える夏希。かすがは腕を組み直し思案すると、夏希に小さく笑った。
「…夏希といったな」
「はい!」
「…好きな呼び方で構わない。これからよろしく頼む」
「は、はいっ!!」
優しく夏希の頭を撫でるかすが。傍からみれば、仲の良い姉と妹のようだった。
「では、野郎共の前では姉貴、素ではお姉ちゃんと呼ばせていただきます!!」
「…ま、まぁ、いいぞ…」
その頃、家の案内をされている男達八人は…
「うおおおお!!まっこと大きな湯殿でござるな!!」
「ちょっと旦那静かにしてよ!」
「Hey小十郎!ここの庭俺の城の庭ぐらい広くね!?」
「政宗様、ご自重なされよ」
「やっべー何この絡繰りおもしれぇ!」
「フン。餓鬼か貴様は」
「いや〜やっぱり男ばっかはむさいね!そう思わないかい風魔の兄さん?」
「………」
まるで子供のように騒ぐ者、それを諫める者、興味がない者等々、反応はそれぞれだった。そして一行は夏希の部屋に辿り着く。
「ここはお嬢の部屋だ。言っとくがお前さんら、死にたくなけりゃお嬢の部屋を覗かないことだな」
「へ?何でだい?」
昴の忠告に一同が首を傾げる。
「お嬢の部屋を覗いた者は即刻追放だ。これはお嬢が決めたことでな、今まで覗いた奴は全員組から追放された。お前さんらもまた然りだと思うぞ。ここにいたけりゃあ、急用以外はお嬢の部屋に近付くな」
妙に深刻そうな顔で言う昴に、一同は傾げた首をぶんぶんと縦に振った。
「俺達本当はここに来たくなかったんだけどよ…一応紹介しとこうと思って…」
辰之助が早く去りたいというオーラを出しながら言った。
「あぁ…じゃ、お前さんらの寝床に行くか」
びくびくと震えながら、一行が夏希の部屋から二、三歩歩いた瞬間、
「野郎共おおおお!!!」
スパンと襖が開かれ、中から夏希とかすがが出てきた。
『お、お嬢!?』
夏希は直ぐ様襖を閉めると、何事かと振り替える子分達に向かって高らかに言った。
「今日からかすがさんは私の姉貴だ!!丁重に扱いやがれ!!!」
『ええええええ』
本日三回目の子分達の叫びであった。
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