「貴方達は…戦国時代から来たってことですか…?」

普通では起こり得ない事実に、夏希は目を見開いた。





「でも…そんなことが…」

夏希はちらりと武将達を見た。嘘をついているとは思えない。第一彼等が手にしている武器が本当のことだと物語っている。彼等が纏う空気も他の人間とは違うものだった。覇気を出せば一般人など一溜まりもないだろう。夏希は膝の拳を握り締めながらも思った。

「俺達もよくわからねぇんだ。気付いたらここにいた。それだけだ」

「本当にあんたが何かしたんじゃないんだよね?」

政宗に続き佐助が夏希に話し掛ける。夏希は佐助からの問いかけにぶんぶんと首を振った。

「そんなまさか!あた…私は貴方達とは初対面ですし、それに仮にそんな力があったとしても連れてくる理由がありません」

「…ならいいけど。もし妙な真似したらその時は容赦しないよ」

まだ俺はあんたを疑っているんだ、と付け加え、佐助は目を細めて夏希を見た。

「…はい」

夏希は佐助の射殺すような目に怯えることなく、先程のように佐助をじっと見返した。

「駄目じゃん忍の兄さん、あんまり女の子を怖がらせるようなこと言っちゃ」

慶次はぴりぴりした空気を緩和させようと明るい声で言った。

「んでさ、夏希ちゃん…だっけ?さっきも忍の兄さんが聞いたけど、今とさっきと態度が違うのは何で?何かさっきまつ姉ちゃん並に怖かったよ」

「某も、恥ずかしながら少し驚きました…」

慶次と幸村が言うと、他の武将達も確かに、と頷く。夏希は初対面の人、しかも昔の有名な戦国武将に話してもよいものかと思案していたが、覚悟を決めたのか真っ直ぐ彼らを見据えた。

(此処で会ったのも何かの縁だ)

夏希は辺りを見回して子分がいないことを確認すると、ぽつりぽつりと話し始めた。

「…私の家は見た通りヤクザの一家でして、江戸時代やら室町時代から代々続く由緒ある組らしく、関東でも結構名前は広がってるんです。先程も申しましたが、私はこの桜組の組長で鈴之内夏希と申します。父と母は色々とあって他界したので、今は一人娘である私が父の跡を継ぎ組長となっています。それで、態度の違いですが…私は幼い頃から父に桜組を継ぐよう言われていまして、あ、母は大反対だったんですけどね。父から組長になるなら喧嘩は強く、子分には優しくも厳しくあらなきゃいけないって教えられて育ったので、子分の前では乱暴な言い方になっちゃうんです。けどそれは子分の前だけであって、学校ではそんな態度は取ってませんし、第一ヤクザの組長だと言うことも言ってません。知られちゃ色々まずいんです……私は、子分にはこんな話し方をしたことはありません。本当は仲良くしたいんですが、父がそれを許さなくて…」

一旦間を置き、夏希は畳に視線を落とした。

「…それに…本当は私…ヤクザの組長なんかやりたくないんです…」

「…ってェことは、嫌々やってんのか?」

「…そう、ですね」

元親からの質問に、夏希は畳から目を離さずに答えた。そして今度は元就が問う。

「嫌ならば、何故やめないのだ」

「……あいつらは…私が辛い時も悲しい時もいつも一緒にいて、励ましてくれたんです。そんな奴らに私が出来ることは、この桜組の組長としてあいつらを守ってやることだけだから…」

唇を噛み締めて俯く夏希。武将達には、逃げたいけれど逃げられない夏希の辛さが痛いほどわかった。自分達もその辛さを味わってきたし、どんな形であれ部下がどんなに大切かということも知っているから。

「……こんなことを子分に聞かれたら、きっと離れていくに違いありません。私は、それが怖いんです。あいつらは…私にとって家族同然ですから……だから未だに本当のことを話せなくて…」

夏希の顔は辛そうに歪んでいた。家族を失うという痛みは、全員既に知っていた。
あまりにも深刻な話に、七人は暫く言葉が出なかった。










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