「お嬢!!お帰りなさいやせ!!」
「あぁ、ただいま」
どでかい家の門をくぐると、明らかにカタギではない男達が両脇にずらりと並んでいる。その間を悠々と歩いていく一人の少女。高く結った黒髪をなびかせるこの少女の名は、鈴之内夏希。
会
「お嬢、学校はどうでした?」
「いつも通りだ。それよりお前ら、ちゃんと家を守っていたか」
『勿論でさァ!』
口を揃えて言う男達に小さく笑うと、夏希は靴を脱いで左右へ続く長い廊下を右へ曲がり、暫く歩いて仏間へ上がった。
「…ただいま。親父、お袋」
仏壇に飾られてある二つの写真に笑いかけると、夏希は自室へ行って制服からジャージに着替えた。すると、ドタバタとこちらへ駆けてくる音が近付いてくる。
「お嬢!大変です!」
「何だ騒がしい」
駆けてきたのは一人の男。夏希の部屋の襖越しに用件を述べる。
「敷地内に侵入者が現れやした」
「なに…?見張ってたんだろ」
「それが、いきなり辺りが光ったかと思えば突然そいつらが現れたんでさァ」
「…何人だ」
「七人ッス」
「…喧嘩売りに来たわけじゃなさそうだな」
「どうしやすか。今前でそいつら見張ってますが、何か変な服着てて…しかも武器持ってます」
「……私が行く」
夏希は竹刀を持つと、自室を出て先程男達が並んでいた前庭へ行った。そこには…
「Ah?誰なんだよこいつらはよ」
「くッ…囲まれておる…」
「ていうか、ここどこ?」
「俺達は戦場にいたはずだが…」
「あっれー?まつ姉ちゃんの鉄拳が飛んでくるかと思ったのに」
「長曾我部、貴様の所為か」
「何でもかんでも俺の所為にすんな!」
七人の異様な出で立ちの男達がいた。
「……お嬢、どうしやすか。取っ捕まえて吐かせやしょうか」
「いい。お前らは手ェ出すな」
近付いてくる夏希を見て、男達が武器に手を伸ばす。
「……誰だ、てめェ」
右目に眼帯をした男が、夏希を睨みながら問う。
「私は鈴之内夏希。この桜組の組長をやってる。お前らは何者だ」
「その前にさぁ、聞いてもいい?」
迷彩柄の服を着た男が、大きな手裏剣に手を伸ばしながら言った。
「あんたら、俺様達に何したの。あとここは何処だ」
殺気を含む目で睨まれるが、夏希は動じずに答えた。
「お前らに何かした覚えはねぇ。そしてここは東京にある桜組の敷地内だ」
「東京…?」
左頬に傷がある男が、怪訝な顔で復唱する。
「知らねぇのか?というか、お前らは何処から来た」
夏希からの問いに、赤い服を来た男が言った。
「上田からでござる。某と政宗殿は上田城で対峙していたはずであったが…」
「俺様と右目の旦那はその付き添い」
「俺は加賀のまつ姉ちゃんとこで怒られてた」
「俺と毛利は瀬戸内海で戦ってたぜ」
聞いてみると、皆てんでばらばらな場所からここへ来ている。
「…さっき子分から聞いたんだが、お前らは光と共に現れたそうだな」
「そうそう。俺はまつ姉ちゃんに殴られそうになった瞬間に光に包まれてさ…気が付いたらここにいたんだ」
「俺は真田と剣を交えようとしたその瞬間、だ」
「俺と猿飛は、主君を助けようとして、だな」
「我は長曾我部と戦っている最中ぞ」
本人達も訳がわからぬままここへ来て、気が付けば男達に取り囲まれていた、ということらしい。
「…じゃあ、この桜組に喧嘩売りに来たんじゃねぇんだな」
「喧嘩?何のことだい?」
先程の黄色い男が不思議そうに言う。
「…そうか。おいお前ら!こいつらを客間に案内しな」
踵を返して竹刀を肩にかける夏希。
「お嬢!でもこいつら超怪しいですぜ!」
「嘘付いてるかもしれやせん!」
お嬢、お嬢、とかけられる言葉を、夏希は大声で制した。
「黙れ!!!」
びくりと肩を震わす子分達。赤い服の男や黄色い服の男も肩が揺れた。
「ここの組長は誰だ?組長の命令に従えねぇ奴は腹切って死んでもらうぞ。わかってんのか!?」
『へっ、へい!!』
「わかったらさっさとお通ししな」
『へいいいい!!!』
竹刀を肩にかけたまま、夏希はずかずかと客間へ歩いていく。それをぽかんと見ていた男達は、子分達に連れられ客間へ通されたのだった。
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