※不倫
「俺もお酒飲みたいんだけど―――いい?」
こてんと首をかしげるポーズ100点、ちょっと照れた顔で微笑むの100点、色っぽい声で私の名前を呼ぶの――10000点。
私が頷くと効果音がつきそうなほど嬉しそうに笑って私の手を取った。当たり前のように恋人繋ぎで、当たり前のように車に乗り込んで、当たり前のようにホテルに入る。当たり前じゃないのは、ゲンさんの左手の薬指に輝くシルバーの指輪だけだった。
コンビニで買ったゲンさんが飲むはずの缶ビールは一口飲んでお役御免。お酒を口実に誘い込まれたホテルで行うことは一つしかない。シャワーも浴びず、するどい獣の目をしたゲンさんに飲み込まれる。いやらしい慣れた手つきで脱がされていく、何人も抱いたんだろうな、ぼんやりとそう考えてると鼻をかぷりと噛まれた。
「なに考えてんの、」「ゲンさんのことだよ。」
嘘は言っていない。そう答えるとゲンさんはまた嬉しそうに笑って自分の服も脱ぎ捨てた。
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ゲンさんの奥さんは妊娠中で今里帰りしていることを、奥さんのSNSで知った。SNSストーカーと化した私は一時間単位でリロードマークを押す。
一度の過ちだと決めていたのにずるずると関係が続いているのは私がゲンさんに惹かれ始めているからだろう。意外と連絡をまめにくれるところ、たくさん褒めてくれるところ、えっちが上手いところ、単純な女だ。探せば他に独身のいい男がいると分かっているのに。一番大きな理由はこのリスクが刺激的で、私の頭をおかしくさせた。
奥さんが里帰り中だけの代用品ということは薄々気づいている。甘く微笑むその顔の目の奥は笑っていないし指輪を外しているところを見たことがない。これ以上深入りするな、と牽制されている。最初私に唾をつけたのは、ゲンさんなのにね。
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「仕事が忙しくなるからもう当分会えないんだよねぇ。」
ホテルの冷蔵庫の中から無駄に高いコーラを飲み干したゲンさんは残念そうに呟いた。そんな薄っぺらい嘘はすぐバレるのに。先週奥さんが出産したと、親子スリーショットの写真のせてたよ。満面の笑みで幸せそうに笑っていたゲンさんは私の知らない顔だった。ぎりぎりとつかまれる心臓、旦那さん不倫していますよと寝顔の写真を送ればスッキリするのかもしれない。でも私はできるはずなかった。
どろりとした黒い感情を飲み込む。両手で頬を持ち上げる、綺麗に笑えますように。
どうかこの感情にうつくしい名前をつけてください
「じゃあ最後にいっぱい抱いてくださいね?」
こてんと首をかしげるポーズ100点、ちょっと照れた顔で微笑むの100点、色っぽい声でゲンさんの名前を呼ぶの――10000点。
あの日のゲンさんの真似したよ、私の言葉はゲンさんのキスでかき消された。
20200826
title by さよならの惑星