※現代if
23時には帰ってくること、遅くなるときは連絡すること。
千空と同棲するにあたって私が決めたルールだ。そのとき千空は微妙な反応をしていたけど、研究に追われてたときいつもなら研究室で缶詰になるのにわざわざ帰ってきてくれたし、遅くなりそうなら前もって連絡してくれた。あの千空に大事にされてるのが感じられてすごく嬉しかった。で、だ。今の時刻は日付をとっくにこえていて辺りの静けさから多分1時を過ぎてるんじゃないかと予想する。チカチカと切れかけた街灯が私の恐怖をあおる。ただシンプルに飲みすぎてしまった。今日はサークルの飲み会で早々に帰ろうと思っていたが酒豪の先輩に連行されてしまい、いつの間にかお開きになるまでトイレで寝てしまっていた。ビールを五杯飲んだ後の記憶がない。それは深刻な問題だった。携帯は充電切れで千空に連絡しようにも出来ない。財布には帰りの交通費しか入ってなくてコンビニでモバイルバッテリーすら買えない。大事にしてもらっていると分かってるからこそ今の私は千空を裏切ってるように思えた。自分でルールを決めたのに、守れないなんて。
大きな音を立てないよう細心の注意を払ってカギをあけ、部屋に入る。さすがに寝てるよね。ただいまあと小声でこぼすと寝室のドアが開いた。
「あ゛ー、遅いお帰りだな。」
「えっまだ起きてたの!」
「寝れるわけねえだろ。」
ごめんなさいと即座に謝る。心配して待ってくれてたんだ。早く風呂に入れと浴室に押し込められ素直に応じる。熱めのシャワーを浴びながら何度も後悔した。やっぱりあのときお酒断ればよかった。充電切れる前に連絡してたかなと過去の自分に期待をしてたけどあの様子じゃあしてないみたい。バカバカバカ、ほんと自分のバカ。
「連絡出来ずにごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。」
寝る準備ができて寝室に入るとまだ千空は起きていてベットの上で携帯をいじっていた。そして私の謝罪はばっさり「聞き飽きた」と切り捨てられてしった。
「テメーが無事ならそれでいい。」
眠そうに欠伸ひとつしながらゆっくり私の頭を撫でる。たまらなくなって勢いよく千空を抱きしめた。体に染みついた薬品の、それでいて優しい千空のにおいでいっぱいになり幸せをかみしめる。安心と、千空の鼓動の子守歌で私の瞼が急激に重くなる。眠る寸前、触れ合った唇は甘い味がした。
おやすみなさい、
良い夢を
20200821
title by 溺れる覚悟