龍水の滲み出る育ちの良さが好きだ。レストランフランソワでみた完璧なテーブルマナーに美しい所作。龍水の戯れで一度社交ダンスを共に踊ったときも初心者丸出しの私を涼しい顔でリードしてくれた。高慢ちきだと思っていたが、個人を否定しないし何より自身の努力を惜しまない。そんな彼に日々惹かれていく自分がいて、それを自覚するたびに私は龍水を避けてしまった。
私が避けているのを感じ取ったのか一度龍水に声をかけられたが、私は俯くしかできないままで龍水は「フゥン。」と一言落として去ってしまった。たぶん呆れられてしまったんだろうなと自己完結。このストーンワールドで惚れた腫れたのさたじゃない。自分の思いを必死に蓋をしたまま龍水たちが乗ったペルセウス号が、出航した。



さようならを



ペルセウスが出航しても、生きていくための食糧調達に科学学園の職員として子供たちに文字書きを教える私のルーティンは変わらない。どうか無事に、全員生きて帰ってきますように。毎日祈るしかなかった。石化3700年復活後でも私のネガティブな気質は変わらないようで、自分の想像力で奈落の底に落とされる。大丈夫、龍水―――千空たちは絶対帰ってくる。なかなか寝付けない夜は思い切り首を振って目をつむる、が深く眠れる日はなかった。



追い越した



「 おかえりなさい。」

掠れて、上擦って、聞き取りやすいとは言い難い声でこぼれた言葉。ペルセウス号が帰港して全員で出迎え、無事に帰ってこれたことに涙した。龍水は相も変わらず不敵に笑っていて、それがすごく安心した。

「はっはー!出迎えご苦労!…今帰った。 貴様、隈が酷いぞ。ちゃんと寝てたのか。」

船から降りた龍水がまっすぐ私の方に向かってきたのに驚いて体が固まってしまった。龍水が遠慮がちにそっと私の頬を撫で、甘く優しい扱いに体がじわじわ熱くなる。


「そんなに、俺が嫌か?」

違うと否定したいのに本格的に泣き出してしまった私は嗚咽交じりにブンブン首を振る。そんな私を見た龍水は機嫌を良くしておもいきり抱きしめ、ドクドクと感じる龍水の鼓動に安堵しまた涙を流した。ああさっきからキャパオーバーだ。蓋をして深い深い場所に隠した恋心が、あふれた音がした。


20200821
title by 溺れる覚悟


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