※石化前




「千空はこんな大人になっちゃだめだよ。」

千空は変わらず実験をしている。反応がないと自分で言っていてなんだか悲しくなってしまい、片手に持っていた缶ビールを目一杯あおった。部屋がくさくなるとブー垂れていた千空が遠い昔のようだ。千空の部屋で晩酌をするようになったのはいつからだろうか。彼氏にこっぴどく振られて公園で泣いていたら小学生の千空に連れられて実験のお手伝いをしたときか、ブラック企業に勤めていたとき中学生の千空がバカかテメーはと怒られながら退職届を書いていたときか、もう千空と一緒に過ごした時間が長くなって忘れてしまった。百夜が何も言わないから私は千空の部屋に入り浸ってるけど、世間的にはだいぶアウトだもんね。また自分の言葉で悲しくなる。

だいぶ前に杠ちゃんが千空にはコアなファンがいるって聞いた。一見何するか分からない怖そうな奴が、人の努力を決して笑わない地道なことにも諦めない男だって知ったら惹かれるしかないもんね。大樹くんには千空がクラスの女の子のテスト勉強に付き合ったと聞いた。結局のところ千空は優しいから頼まれたら断らないし分かるまで教えてくれるから、その子はすごく良い点数を取ったんだろうなあと思うし千空のこと好きになると確信する。そんな子に私は今千空の部屋にいる優越感に浸って、ああなんていやらしい。歳の離れた私の劣等感。
伸びた爪、浮いたネイルで私はまたビールをあおるしかなかった。






心臓


20200818
title by 溺れる覚悟


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