自分も何者かになれると思っていた。
有り余る体力でここぞという時に頼りになる大樹。すごい細かい作業でも根気と集中力であっという間に終わらせる杠。そして科学で世界を、――人類を助け出す千空。石化前はそんな三人と一緒に過ごすことが多かったから私もいつかは三人のようになれると、思い込んでいた。
三人の友達だから、と優先的に石化を解いてもらったのにこの体たらくはなんだ。大樹のような体力がないから畑を耕すのもすぐバテる。杠のように根気もなければ自分の不器用さで裁縫ですらままならない。今日は千空のお手伝いの薬品の調合で、持ってきてほしいと頼まれた薬品を滑らして落としてしまった。割れたシャーレで怪我してないかと心配をかけてしまったし、何より大切な薬品とカセキが作ってくれた大事なシャーレも私のせいでなくなってしまった。


「まあ怪我がなけりゃいいか。あんま気にすんな。」
「ごめっ、んなさい、」
「今日はもう休め。顔色わりぃぞ。」


怒られてもいい場面なのに、千空は何事もなかったように調合に取りかかる。ごめんなさいとまた一言千空に伝えてラボから出ていった。私は何をしてるんだろう。みんな一生懸命働いてるのに足を引っ張っている。そろそろ三人に見限られてしまうんじゃないかな、いやな想像がずうっと頭の中で回ってる。個々を確立した三人に追いつきたくて、何かをするたびに気持ちが先行しすぎて空回ってる。自分のダメっぷりを思い返してまた憂鬱。休めと言われてもこんな気分で休めるわけがなく、部屋に戻らず人気のない木陰に腰かけた。このまま石化したら楽なのかな。折角石化を解いてもらったのにこんなことを考える自分が嫌で、涙がぼろぼろとあふれる。


「俺はこんなとこで休めって言ってねーよ。」
「せ、んくう!」
「ウダウダなんか考えてるときは人が誰もこねー場所に隠れるの変わらねぇな。」


千空が私の横に腰かけた。薬品の調合は?とか、なんでこの場所分かったの?とか疑問は出てくるのに私は「あ」だとか「う」だとか言葉にならなかった。千空のルビーの瞳が私を映す。千空は、私が言うのを待っている。ふっと呼吸を落ち着かせて口を開けた。


「−−どうして私を、役に立てない私を復活させてくれたの?」
「あ゛ー?どうせ全人類復活させんだ順番なんてテキトーだ。」


そんなことで悩んでたのか言いながらと小指で耳をかいてる千空を見ると、気が抜けてしまった。千空らしい返し方だなあと声をあげて笑う。なんだかこんなに笑うの久しぶりだなあ、千空の一言で心のつっかえが取れた気がする。


「テメーはそうやって間抜けに笑ってた方がいい。余計なことに気を揉むから失敗すんだよ。」


大樹が「名前が一番畑のことを気にかけて世話をしてる」と、杠が「名前ちゃんは時間は少しだけかかるけど丁寧な裁縫をしてくれる」と言っていたことを千空が教えてくれた。良かった、わたし、ちゃんとみんなの役に立ってたんだ。





「俺は名前がいると作業効率が良いんだよ」


がしがしと乱雑に私の頭を撫でる千空の手は少し熱かった。


20200817
title by 溺れる覚悟


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