「赤葦は私に興味なんてないんでしょ!」


ヒステリックにそう叫べば赤葦の眉間の皺がだんだん深くなっていく。最悪だ、こんな事を言うつもりなんてなかったのに。そんな心中とは裏腹に私の口は止まることなく彼に対しての暴言を吐き続ける。赤葦は私の言葉に何も答えないし反応も示さなかった。ただ冷めた目で私を見下ろしていた。部活終わりで疲れきっているのにめんどくさい女に絡まれて、赤葦はどう思っているのだろう。ぶわっと涙が溢れそうになる。だめだ。これ以上赤葦に嫌われたら、私、死んでしまう。


「落ち着け」


ぜぇぜぇと肩で息をしている私に赤葦はたった一言を落とした。ただそれだけ。さっきまでの私の暴言はあしらわれたのだ。言い返しもしてこない。喧嘩すら、させてもらえないのか。怒っている人間を落ち着かせるには何も言い返さない方が最善の策かもしれない。赤葦はたくさんある選択肢の中でそれを選んだ。でもそれは私にとっては一番選んではダメな選択肢だよ。もういい。私は、もう赤葦から離れた方がいい。こんな面倒くさい女は赤葦には必要ない。







暗いから家まで送ると言った彼の手をすり抜け私はトイレに逃げ込んだ。学校のトイレは嫌いだ。小学校のときのトイレがくさくて汚くて最悪だったイメージが払拭されず今に至る。高校のトイレは比較的綺麗だけど、何だか怖い。今の時間に入ったのが悪いかもしれないけど。辺りはもう真っ暗で、トイレから見える木々はお化けと錯覚してしまいそうだ。赤葦に送ってもらえば良かったのかな。ううん、それじゃ赤葦と決別出来ない。それでも小さい期待を膨らませてスマホを起動させる。ラインは友達から3件、電話0件、メールは迷惑メールが2件。赤葦に我儘言って一緒にとった恋人専用連絡アプリは電話もメッセージも0件だった。ほら、やっぱり。赤葦はもう私のこと―――。ほんとは聞こうと思った。“赤葦は私のこと好き?”って。でも怖くて、聞けなかった。好き。好きだよ。好き。私はこんなに好きなのに。




苗字名前という女がいる。隣のクラスでこいつが俺に告白するまで俺との接点はなかった、はず。接点がない女子に告白されるのはたまにある。苗字のときも当たり障りない断り方をしたはずだった。「バレーに集中したいから、付き合えない。ごめん」はっきり断ったはずなのに勘違いして苗字は何故か次の日俺の彼女になったと言いふらしたのだ。毎日毎日俺の後をつけ、ひっつきまわってベタベタして、鬱陶しいし気持ちが悪い。
さっきだってヒステリックに叫び散らして、流石に暗いから家まで送ると言ったら俺の腕を引っ掻いてどこかに行った。あの長い爪で引っ掻かれた腕は暗がりの中でも血が出ていると分かった。ああ鬱陶しい、早く帰って風呂に入りたい。



20140812

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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