写真の中の切り取られた風景のようだった。高校生活の中で三年目に突入する登下校時のこの道は最初と比べて随分と変わってしまった。小さな公園しか目につかなかった寂しい道は、エルイーデーの電灯に立ち並ぶ一軒家が立ち並ぶ。まぶしくて煙たくなってしまった。やわらかな太陽も流れる雲も、何だか遠くなったような気がする。わたしもこういう風に変わってしまうのだろうか。いや、もう、変わってしまってるんじゃないかな。自転車のハンドルを握る手が強くなった。


「わたしたち、もう卒業だね。」
「まだ六月だぞ。」
「もう六月なんだよ。」


わたしがはっきりそう言うと新開の顔が歪んだ。綺麗なかんばせが歪んだ。わたしはあの新開の顔を崩した少しの優越感と罪悪感に胸がくすぐられた。わたしたちには時間がないんだよ。もう高校生ブランドは終わってしまう。新開の生活もわたしの生活も今とは変わっちゃうんだよ。ふわふわ宙に浮いた気分。数カ月先の未来に目眩がした。






「新開だけに教えてあげる。わたしね、昨日万引きしたの。生まれて初めて万引きしたの。この大切な時期に!マニキュアにビーズ、ビー玉も。」


ブレザーのポケットから戦利品を取り出し机に並べる。ブレザーの中で温まっていたビー玉は十月の肌寒い空気に触れてぬるくなっていて、ためしに舐めてみるとほんのり甘くてやわらかい味がした。新開はわたしを怒ることも、反応を示すことさえしなかった。きらきら輝くそれをぼうっと見ていた。ふわふわと新開のゆるいパーマが揺れる。三年になると同時にあてられたパーマ。髪は傷みをしらず、天使の輪っかが出来ている。ちょっとだけ羨ましい。わたしがパーマをあててたときは悲惨だった。髪はひどく傷んで潤いはなくなり、十五センチ以上切らなければ元のようにはならないほどだった。小さな期待がむくむくと膨れ上がる。期待が弾けた瞬間、わたしは新開の髪の毛を一束思いっきり引っ張ってみた。ぶちりと嫌な音が教室に響く。何十本かはわたしの手中にあった。


「新開が悪いんだよ。」


新開が何か言いかけたのに被せるようにわたしがそう言うと新開は口を閉じた。分厚い唇は今にもわたしへ噛みつきそうだった。



20140811

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