「百年の恋やと思っててんけどなあ。」


ふうっとストローから息を吹きかけると、こぽこぽと爽やかな緑が氷と一緒になって踊る。着色料がたっぷりと含まれたそれはわたしの舌を緑に汚す。しゃわしゃわ、しゅわしゅわ。やっぱりこの店のメロンソーダが一番炭酸がきいてて美味しい。喉に痛みに似た炭酸の刺激で顔をしかめる。オリコンチャートが連続で一位を獲った流行りの曲が店内に流れ始めた。軽快なメロディと可愛い歌詞、目を瞑ると友達と一緒に見たPVが浮かんでくる。所詮ファミリーレストラン、音楽のボリュームが小さくてすぐに周りの喧噪にかき消された。
ちらりと目線をわたしの前に座る財前に移す。財前はサボった授業のノート写しをしている。さらさらと止まらない手。わたしのピンクでこてこてのシャーペンと財前らしい綺麗でシンプルなノートが何だかミスマッチで少し笑ってしまった。わたしの笑い声を聞いて財前は顔をあげた。


「その台詞、お前から聞くことなるん思わんかったわ。」
「そんなん冷めたんやからしゃあないやん。」


財前はわたしのことを鼻で笑うとまたノート写しに専念し始めた。ストローで遊ぶのももう飽きた。だらしなく噛みつぶされたストロー、息を吹きまくったおかげで炭酸が抜けきったジュース。つまらん、何もおもろない。仕方がないのでスカートのポケットからスマホを取り出す。ラインが数件溜まっていた。ともだち、ともだち、せんぱいからだ。友達の内容を確かめる前に先輩からきた本文を確かめる。“木曜日寿司食いに行けへん?”すぐにわたしは了承のスタンプを押した。多分木曜は空いてたはず。カラン、と氷が揺れた。


「先輩と木曜お寿司食べに行くことなった。」
「お前さっき言ってたことちゃうやん。」
「ちゃうねん。前みたいに先輩とちゅーしたいって気持ち無くなってん。」


ちゃうねんの応酬がそこから続く。ほんまに今は先輩と友達みたいな感じやもん。一ヶ月前の自分を思い出すと頭が痛くなった。先輩のためなら何でもしたし、好かれるためにわたしの全てを捧げた気もする。財前はそれを全部近くで見てきたから、わたしがこう言うのも信じれないのだろう。ぴたりと財前の手が止まる。写し終えたのだろう、ぐんっと伸びをしていた。そして長い溜息をひとつ。財前はわたしのメロンソーダ奪いそれを一口飲むと不味いと一言。そして財前は小さく笑った。


「お前はほんまにクズやなあ。」














20140616

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