びちゃりというより、べたりの方の擬音語がしっくりする。水分を含まない私の嘔吐物はトイレに張り付いて一度流しても流しきれないほどだった。折角最近オープンしたばかりの揚げ物屋さんのから揚げを食べたのに。金賞を受賞したこともあって、すっごく美味しかった。口内は脂っこいから揚げと苦い胃液の味が混ざって気持ち悪い。トイレは酸っぱいにおいが充満してまた私の吐き気を誘う。口に指を突っ込んでもう一度吐いた。べた、べたり。ぐちゃぐちゃになったから揚げをすぐに水に流した。

歯磨きしてコップ一杯の水を飲む。この吐いた後の何とも言えない達成感が好き。例えるなら、中学のときにあったマラソン大会を走り終えた後の達成感に似てる。吐いてる最中は苦しくて辛いけど、止めれなかった。こんなに気持ちが高ぶるのはこのときにしか得れなかったから。初めて吐いたのは高1のとき。食べ過ぎたから吐いてみよう、が食べたから吐いてみように変わり今は少し食べてもすぐに戻すようになった。私はもう気軽におやつを食べたり、ご飯を食べに行ったり出来なくなった。食べている最中に耳元で囁かれるのだ―――「おまえは醜いブタだな」。



「またここにニキビが出来ている。」
「ああホントだ。吐いてるとき指当たって痛かった。」



形の良い眉が下がる。だらしなく開いた少し腫れぼったくなった唇はてらてらと光っていた。傍から見れば厭らしい唇にはぽつりと端にニキビが黄色い膿を出して存在していた。先ほど吐いている時に指が当たっていたのだろう、少し周りも赤くなっている。
彼女が喋ると僕の大嫌いなにおいが鼻腔をかすめる。嘔吐後特有のにおい。いつもそのにおいを纏う彼女は大嫌いで、だけどどうしようもなく愛おしかった。生気のない目も、こけた頬も、皮と骨だけの細い手足も、潤いもないパサついた髪さえも、全て愛おしい。



「征十郎は良いにおいだね。」



私の投げかけた言葉に征十郎は返事もせず、ただ抱きしめる力を強めた。ぎしりと骨が軋む。少し、いや大分痛いけど、征十郎の方が辛そうな顔をしてるから私は何も言えなかった。征十郎の上品で、でも太陽みたいに温かいにおいに包まれて天国にいるみたいな気分。多分私が死んで天国にいくときは征十郎の腕の中なんだろうなあ、と思う。このことを征十郎に言ったら怒っちゃいそうだから言わないけど。ああ征十郎とずっと傍にいるためにはもっともっともっと痩せなきゃいけないなあ。



20140616
絆創膏とキャラメル

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -