どしゃ降りの雨の日だった。砂漠にはあまり雨は降らない。貴重な雨だが、ごろごろと雷も唸り、外出を控えるような天気の日だった。まだ昼過ぎだっていうのに辺りはどす黒い灰色に包まれていて幼かった俺には恐ろしく思えた。ピカリと雷が光り、体を震わせた瞬間、隣にいた幼馴染にぽつりと呟いた。サソリは優しいね。俺は何故いきなりそう言われたのか分からずただありがとうと返すしかなかった。









ちらちらと雪が降る日だった。寒くて外に出たくなかったが幼馴染に手を引かれ渋々外で遊んだ。俺は寒さ対策を万全だったがあいつはいつもの服装だった。はあっと白い息を吹く姿を見ると雪のように解けて消えてしまうんではないかと思い、手を握った。きんと氷水のように冷えた指先を温めるように、俺の体温を分け与えるように、絡めた。サソリは優しいね。照れくさそうに俯いて呟いた言葉に俺は無視をして、ぎゅっと絡める指の力を強くした。









ぱちん、と割れた。まだ三十を超えていないだろう母親とその子供が二人一緒に風船ガムを膨らませ遊んでいる。ぷう、ぱちん。何度もそれを繰り返す。何が面白いのか、きゃっきゃと笑っている。横目であいつの方を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。すぐに俺は目線を前に向けた。









かんかんと太陽が照りつける日だった。一つ年上の幼馴染はシミとそばかすを気にして大量に日焼け止めを塗っていた。ここから出ていくの。みんなには内緒だよ。サソリとわたしだけの秘密。また戻ってきたらサソリにたくさんのお土産とお話を聞かせてあげるね。楽しみに待っててね。約束。そう言って、もう必要なくなったと愛用していた日焼け止めを俺に渡して風のように消えた。大人達の話題のタネはこの日からあいつになった。どんな内容だったかは今となっては忘れてしまったが良い話ではなかったというのは覚えている。あいつとの約束はすぐに破ってしまった。俺もまた、風の国から出ていったのだ。









サソリは優しいね。息も絶え絶えで、全身が血だらけで、もうすぐで死ぬってのにこいつは呟いた。あれだけ気にしていたシミとそばかすが所々について、老いた幼馴染は思い出を噛みしめるように呟いた。お前はもうじき死ぬ。死ぬんだぜ。馬鹿みたいに生きたいって泣けよ。何でそんなに幸せそうに笑うんだよ。そっと最期の力を振り絞って俺の手に指を絡めてきた。今では俺の方が冷たいんだ。だんだん冷たくなっていく幼馴染の指がどうしようもなく滑稽に思えた。



20120725
あの子が泣いてる音がする

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