「あたし、サソリのこと分からないよ!」


そう言った女の人の言葉が途切れると同時にバチンと弾ける音がした。さくらんぼみたいに小さい顔でりんごみたいに赤い頬、チワワみたいにまん丸い目をもつ女の人が、サソリという名の男の人をぶった。この人もまたうっとりと見惚れるほどの白い肌や目を引く真っ赤でふわふわの髪にビー玉のような丸く透き通った瞳をもっている。でも今のサソリさんの左頬は赤くはれ上がっている。右頬は物凄く白いのに、何ていうか初めて化粧のチークにチャレンジした幼い女の子みたいだ。化粧鏡の前で失敗したと嘆く姿を想像して一人で吹いてしまった。いけないいけない、こんな修羅場に立ち会ってるのでさえ奇跡なのにそれを邪魔するなんて。
もしこの二人が歩いてたら誰もが二度見いや十度見ぐらいするだろう。ほれぼれするぐらいの美女と美男で、確かこの二人はこの学校で美女美男ランキングで常に上位をキープしているはずだ。そんな二人の壮絶な修羅場が巻き起こっているのは屋上。今日は連日の雨から一転凄く晴れていてそんな天気に感化されてか、初めて授業をサボった。もうすぐで眠るというところで二人の修羅場が始まった。二人からは私がいるところは死角になっているようで全然私の存在に気づかない。修羅場に割って入ることも出来ず、屋上から出ていくことも出来ず、ただただ身をひそめ修羅場が収まることを待つことしか出来なかった。




「あー、俺様の柔肌に傷つけやがって。あの女ぶっ殺す。」


少女漫画のようにきらきらと涙を浮かべ美女は屋上から走り去った。それから三秒もたたないうちに地の底から響いてきたような低い声が屋上に響き渡った、もちろんその発言者は美男ことサソリさんである。私はサソリさんの言葉を聞いて鳥肌がぞわりとたった。サソリさんには色々な噂がある。千人以上の美女と寝たとか闇組織に勧誘されてるとか、はたまた温厚で喧嘩嫌いのへたれだとか。あまり喋ることも怒ることも見たことがなかった私にとってはよく耳にする噂は後者の方を信じていた。優しい人だと思い込んでいたからサソリさんの発言には本当に驚いた。まさか俺様だったとは。


「…おいそこのお前。さっさと出てこい。」
「ひ、っ!」
「俺様が殴られたこと誰かに言ったらどうなるか分かってるよな?」
「はっはいいぃぃいぃい!」


今にも制服の中から拳銃やナイフを取り出してきそうな剣幕で話すサソリさんを見て私は生まれて初めてスライディング土下座をした。ごんごんと額を冷たいコンクリートに打ちつけながら必死にサソリさんにアピールする。私は誰にも言いません、だからお命だけは…!その私の姿にサソリさんはうっとりとした表情を浮かべにやりと厭らしく口角が上げた。ひやり、鳥肌の次は冷や汗が止まらない。ああ本当何で屋上でサボったんだろ。むしろ何でサボろうと思ったんだ馬鹿野郎。私の思いはサソリさんの一言で儚く散っていった。


「お前これから俺の下僕な。」



20120304

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