キル・アース | ナノ



スヤスヤと安眠していたら、バシッという音と頭への衝撃で目が覚めた。
驚いて視線を上げると、呆れた様な目つきをした空条君が目に入る。


「い、痛いよ空条君…」

「お、おい承太郎!女性をそんな風に起こすんじゃない!」

「うるせーぜ、花京院。結構な戦闘音がこいつには聞こえてたはずだろ。いい加減目覚ませ」


シャキッとしろ!と、座席から立たされて若干寝ぼけた頭で説明を受ける。どうやら私が眠っているうちに、敵のスタンド使いからの攻撃にあっていたらしい。しかも私が人質にとられていたみたいだ。何かの役に立とうと思って参戦したのに面目ない。


「こいつのひたいには…DIOの肉の芽が埋め込まれていないようだが……!?」

「肉の芽って、花京院君が埋め込まれてたっていう………?」


敵の死体を見ながら呟く花京院君に、そう声をかけると、渋い顔でコクリと頷いた。ちなみに私は、こういった死体は平気である。グロいけど、救急外来や手術室に勤めていた事もあるからもっとひどいのをいくつも見てきたのだ。


「灰の塔はもともと旅行者を事故に見せかけて殺し、金品を巻き上げている根っからの悪党スタンド。金で雇われ、欲に目がくらんでそこをDIOに利用されたんだろーよ」


みんながアヴドゥルさんの見解に納得したところで、機体からドゥオオオやらギョギイイィィインやらどう考えても正常ではない音が聞こえた。そして、気のせいではなく、確実に機体が傾いているのを感じる。

ま、まさか!と駆け出すジョースターさんの後を追いかけ、コックピットに入ると、機長さん達が口から血を流して倒れているのが目に入った。

さっと駆け寄り、状態を確認したが助かりそうにはなかった。舌が抜かれているだけではなく、頚椎に何かが貫いたような穴が開いていたのだ。


「ダメ、絶命してる…」

「あのクワガタ野郎、すでにパイロットたちを殺していたのか!」

「降下しているぞ…自動操縦装置も破壊されている………。この機は墜落するぞ…」

一行が機体の状態を確認していると、コックピットの扉が開く音と共に、ぶわばばばあはははーーッという笑い声がした。バッと振り返ると、灰の塔のスタンド使いが全身から血を吹き出しながら立っていた。あの血の量と怪我で死なないなんて、人間の生命力で可能なのだろうか。


「ブワロロロ〜〜ベロォォォ
わしは事故と旅の中止を暗示する"塔"のカードをもつスタンド!おまえらはDIO様の所へは行けんン!たとえこの機の墜落から助かったとて、エジプトまでは1万キロ!その間!DIO様に忠誠を誓った者どもが四六時中きさまらをつけねらうのドァッ!世界中にはおまえらの知らん想像を超えた"スタンド"が存在するゥ!」


長い台詞を言ってのけた彼からは、かなりの血が吹き出ている。これはもう助からないだろう。
そんな姿を見ている花京院君とアヴドゥルさんは、冷や汗をかいているようであった。


「DIO様は"スタンド"を極めるお方!DIO様はそれらに君臨できる力を持ったお方なのドァ!たどりつけるわけがぬぁ〜〜〜〜い!決して行けんのどあああああばばばばばゲロゲロ〜〜〜〜………べちあっ」


ジョバアッと最後に更に大量の血を撒き散らして、灰の塔は絶命した。
それを尻目にガタガタと震えているスチュワーデスの人達をコックピットから出た。若く、耐性も無しにあんなショッキングな場面を見て辛いだろう。背中を撫でながら落ち着かせる。


「お二人とも、大丈夫ですか?」

「……ええ、なんとか…」

「あ、あれは何だったんですか……?」

「恐ろしいものを見てしまいましたね、怖かったでしょう。ですが、今は説明している暇はありません。今からこの機体を海上に不時着させます。他の乗客の方に救命具をつけて、座席ベルトを閉めるよう伝えてもらえますか?皆さんの命を守るためです。あんな場面を見ても悲鳴すら上げなかった、強い心を持ったあなたたちならできますね?」

「「は、はいっ!」」


そう、彼女たちに葉っぱをかけ背中を叩くと、少し顔を赤くさせながら駆け出していった。やはり、あの場面は耐性の無い彼女たちにとってはかなりショッキングだったんだなと感じた。吐かなければいいが……。そういえば、アヴドゥルさんとジョースターさんは大丈夫だと思うが、空条君と花京院君は大丈夫だろうか。彼らはまだ高校生であって、こんなのは見馴れていないはず。気持ち悪くなったりはしてないだろうか。

怪我をしていたことも思い出し、近場にあった救急セットを掴んでコックピット内に戻る。


「2度とテメーとは一緒に乗らねぇ」


戻ると、何故かジョースターさんに向かって空条君はそう言っている場面が目に入った。