キル・アース | ナノ




それからなんやかんやあって、スタンドの恐ろしさというものを知った。炎が出たり鉄格子がひしゃげるくらいの強い力があったり、皆さんのスタンドはかなり攻撃的である。
その間にエクソシスト云々の話しはうやむやになった。よかった……。

ちなみに空条君とは騒動が一段落した後、一応自己紹介を交わしている。あの身長とガタイの良さでまだ10代というのだからビックリである。
しかし…………空条承太郎、どこかで聞いたことある気がするが思い出せない。

そして今、近くのカフェ(こんな所あったかな…?)でジョースター家の因縁の話しを聞いている。何とも漫画みたいな話しだ。
というか、私も話聞いててもいいのだろうか……。

ズズズ、とコーヒーを飲んでいると急に膝の上に重みを感じた。ハッハッハッと舌を出して息をしながら、テーブルの上に前足を乗せている。ビックリしてカップを落としそうになったが、なんとかこらえた。他の人たちも驚いている様子で私を凝視している。


「まぁ!かわいいワンちゃん!」

「あ、聖子さん触らない方がいいですよ。この子もスタンドらしいので……。どういった力かはまだわからないですけど」

そう私が言うと、聖子さん(ホリィさんと呼んだらこっちで呼んでと言われた)はあからさまに残念そうな顔をした。

そんな彼女を見て、犬はワンと吠えてから私の膝の上を降り、隣のテーブルにいる客の臭いを嗅ぎにいった。


「スタンドというより、ただの犬じゃのォ…」

「ですね………」

「ミョウジはあいつの動きをコントロールできないのか?」

「うーん、どうなんでしょう…?試したことが無いのでわからないですね」

「やってみたらどうだ。」


や、やれと言われてもどうやったらできるのよ………。と思いながら、とりあえず犬に向かって戻っておいでと声をかけた。
犬はチラとこちらに目をやってから、むしゃむしゃと何かを食べはじめた。犬が食べているそれはキラキラと光っていて何か人間にとって大切なものであるように感じる。気のせいだろうか。

一通り食べ終えたのか、満足そうな顔で私の場所まで戻ってきた。一応言うことは聞いてくれるらしい。自分のしたい事優先のようだが。

犬を拾い上げようとすると、犬が何か食べてた人の方向からガシャーーンという音がした。

ビックリして顔を上げると、椅子からひっくり返り、コーヒーをズボンにぶちまけ、後ろに座っていたヤーさんらしき人の服を派手に破いている(襟首を咄嗟に掴んでそのまま倒れたのだろう)男性の姿が目に入った。
ヤーさんにこれでもかというくらい怒鳴られ、絶望した顔をした彼はそのままヤーさんに連れていかれた。


「………あんた、一体何したの………?」
「ワン」


ドヤッ!というような表情でワンと吠える犬。本当に一体何をしたのだろう。心なしか毛艶が良くなった気もしなくもない。


「あっ、あの!」

「………え?あ、はい」


ポカーンとしているみんなを見て苦笑を浮かべていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、ウエイターらしき青年が顔を真っ赤にしながら立っていた。どうぞ、と頼んでもいないパフェを目の前に置かれる。


「え、パフェなんて頼んでないですけど……」

「あっえっと!ぼ、僕からです!よかったら食べてくださいっ」

「あ、ありがとう……?」


ちょっと困惑気味に言葉を返すと、青年はかわいいっ!と言いながら更に赤くなって去っていった。なんだったんだ。


「…ナマエちゃん」

「あ、何ですか?聖子さん」

「もしかしてだけど、そのワンちゃんは人の幸運を食べてナマエちゃんのものにしちゃうんじゃないかしら……?」

「エッ」


じゃああの人がガッシャーンしたのも、私がパフェもらったのも、みんなこの犬のせいってこと?

どうなの?というような視線を向けると、いかにも!といった感じでワンと吠えられる。


「戻してきなさい。今すぐに」

「ウー……」

「ダメよ、そんな事しちゃ。早く戻してきなさい」

「くぅん」

「まぁまぁ、ナマエ。貰っちゃったもんは貰っとけばいいじゃろ。そのスタンドの能力もわかった事じゃしな」


いや、あれは奪い取ったというのでは……。まぁ、いいや。
目の前に置かれたパフェに舌鼓をうつ。んまい。ペロッと食べ終えた所で時計を見ると午後3時だった。


「あ、私夜から仕事あるのでこの辺でおいとまさせていただきますね」

「なっなに?!夜の仕事じゃと!?」

「???は、はい…。そうですけど」

「くぅ〜!こんな若い子が夜の仕事だなんてワシは認めんぞ!」


いきなり息を荒げ始めたジョセフさんに困惑する。
ど、どういうことだってばよ…?
何をそんなに怒っているのだろうと首を傾げる。他のメンツも何やら咎めるような雰囲気だ。


「ナマエちゃんの親御さんはそのことを知ってるの?」

「?…はい、もちろんですけど」

「にゃにーー!?なおさら許せん!ワシが親御さんに直接話しをしてやるぞ!!」

「え?え?」


私が理解できませんとばかりに困惑の表情を浮かべていると、ポンと肩に手を置かれた。空条君だ。


「どこの店だ?」

「はい?」

「……どこの店で働いているんだ?」

「市民病院ですけど…」

「………エッ」

「エッ」

「…………女性に年齢を聞くのはマナー違反じゃが……。ナマエ、お前さん年齢は?」

「28ですけど…」

「OH MY GOD!!」

「やれやれだぜ」


な、何がやれやれだぜなんだろう?結局私はわけがわからないままその場を去る事になった。