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≫≫≫365日の真田組!



03.
ステップ


「やーちゃん……」

「なんだ?」

「つまらないよ…すっごくつまんないよ」

「そう言うな、まだ始めたばかりだろう?」

「もうやーちゃんが気持ち悪い…!!」

「……そういう感想は初めてだな」


ごめんね、柳。今のは完全に八つ当たり。だけど心の底からそう思う。なんでこんなに小難しい事が難なく出来てしまうのかと。だって貴方が得意なのはテニスでしょ?


「何で!?やーちゃんがダンス出来るなんて気持ち悪いよ!難し過ぎるよ!何でサラッとやれちゃうの!?軽やかにステップ踏むやーちゃんなんてキャラじゃない!」

「……遠野、今物凄く失礼な発言をしていることをお前は気付いているか?ついでに勢い任せにおかしな呼び名を付けていることも」

「うん!!」


もう誰、必修科目にダンスなんて入れたの。元々自分が運動音痴なのは気付いてたよ?知ってたよ?だけど走ったり投げたり掴んだり、そういう技を必要としないのなら何とかなるかもと淡い期待をした私がバカだった。全然出来る気配ないんですけど………!


「何故手と足が一緒に出るんだ……この場合リズムに乗れていたら自然と右足が出るだろう?」

「うぅっ……もうやぁーちゃんがリズムに乗るとかキモい!」

「……お前は教わる気があるのか?」

「ある!!」

「ならそろそろ揚げ足取りをするのは止めてくれ」


体育の授業でそれが取り上げられることとなり、ついに我が校でもその第一日目を迎えた今日。

初っ端から蹴つまずいた私を見兼ねて、同じ班となった柳がレクチャーしてくれているのだが、どうにもこうにも上手くいかない私は脳内パニックになっていた。

加えて、純和風男子みたいな風貌をしているクセに、そのサラサラな前髪を爽やかに揺らして意図も容易く習得していく柳が恨めしい。頭も良くて運動神経全般が良くて顔が綺麗だなんてどこの少女漫画のヒーローだ…!神様不公平…!

………と、いくら繰り返しやっても上手くいかないジレンマで、先程から柳を貶しまくっている私に当人は呆れ顔で終始溜息を吐くばかり。


「はははー!!遠野ダセェー!!」

「っ!?っるさいよ猿!」

「あの真田だって出来てんだぜー?悔しくないのかよお前ー?」

「だからぁ…!悔しいから教えてもらってんでしょうが!」

「止めろ木村。下手に刺激すると益々頭がパンクする。遠野は脳のキャパが少ないんだ、余計なことは言うな」

「わぁー…柳くん、さっくりと酷い。まぁその通りかもだけど」


おまけにこうして木村や由佳にまで馬鹿にされる始末で……。ちなみに二人とも体を動かすことに普段から慣れているのか、躓くことなく難なく習得してしまっている。そんな友人たちの中で自分だけが出来ないというのが尚更に悔しい。というか情けない。そして実にみっともない。


「……こんな体もういらないよぉ!」

「おい、極論を言う前にまずはこのステップを覚えることに専念してくれ」

「やーちゃんの鬼!」

「すまんな。だがお前のせいで我が班だけ出遅れているのだ、自覚してくれ」


それが分かっているから泣きたいんだよ!…と、反論したい気持ちを堪えて、私は真顔の柳を前に深く深呼吸をした。迷惑掛けているのは知っている。半期後には各班一曲ずつ発表をしなければならないというから、私が出来なければ班の皆の評価だって下がる可能性もある。


「……もう一回最初から教えて」


それくらいのこと、分からない訳ではない。何度も言うようだが、むしろ分かっているからこそ焦るのだ。焦れば焦るほど頭がこんがらがりそうになるのだ。

柳の言う通り泣き言ばかり吐いていても仕方ないと重々承知している私は、泣いてしまいたい気持ちを抑えて呟いた。なんとかしなければという気持ちで、柳の足元を睨み付ける。ようは真似すればいい。この足の動きを真似すれば…同じように…真似すれば…。


「……ったぁ!!何!?」

「見過ぎだ。まずは話を聞け」


と、柳の足元をガン見していると後頭部に激痛が走る。


「柳くん、女子相手にグーで殴ったわよ」

「蓮ちゃん物腰柔らかいけど紳士ではねぇよなぁー」


呆れ顔で由佳や木村が会話をしているのが聞こえるがその輪には混ざらず、痛む頭を押さえながら正面の柳を見上げる。すると短く息を吐いた柳は、再び口を開いて先ほど教師から指導されたステップの手順を一から説明し始めた。


「リズムの取り方は分かるんだろう?」

「う、うぅん……なんとか…」


ダウンのリズム…とかなんとか体育教師は言っていた。一応吹奏楽部なので、一定に刻まれるメトロノームを脳裏に無理やり思い出させながら身体を揺らせば、リズムを掴めむことだけはなんとか可能。


「ふむ…脚を動かさないままならそれなりに乗れるのか」


そのまま片脚を床から引き上げ、着地と同時に入れ替わりに逆脚を前に出す。と、同時に腕を前後に出したり引っ込めたり……


「え、なんか、だんだん前に進んじゃうんですけど…!?」

「交差する時に一度両足を床に揃えるのを忘れているんだ、それだとただの行進になる。……遠野、今日のところは腕は捨てろ。動かすな。脚に集中しろ」


と、アドバイスを頂き、再びワンツーワンツーと柳の口からテンポ良く繰り出されるリズムに合わせて脚を降る。…ってか不似合いだよやっぱり。柳とHIPHOPなんて。

と思っても、それを馬鹿にする余裕も資格も無い私。間違える度に丁寧に教えてくれる柳に申し訳無くて、私は必死に足を動かした。もつれそうになると柳が手を貸してくれながら、時折入る由佳や木村のアドバイスを受けて、不恰好であるがなんとか形にはなってきた頃。体育教師がホイッスルを鳴らし、今日の授業はひとまず終了となった。


「……あー…もー…これをずっと続けるの?やだよあたし…」

「夏までの辛抱だろー?プールの時期になったら解放されんじゃね?」

「それもやだ……!」

「はぁ?…あ!まさか、お前」

「……泳げないんだな?」

「哀れ、ルイ」


体育館から教室へと戻る道すがら。精神的苦痛に一時間近くも苛まれて嘆く私に、三人の友は容赦無い言葉を浴びせ掛けた。

何の嫌味か、こいつら揃いも揃って運動神経がいい。木村はバスケ部キャプテンだし、バレー部の由佳は万年スタメンのアタッカーらしいし、柳は男テニレギュラー且つ全国区選手だし…なんで友達になれたんだ私?…いや、ただ同じクラスで席が近いというだけだったんだけど。

とにかく。その身体能力が羨ましくて羨ましくて仕方ないこの気持ち、きっと奴らには分かるまい……。


「どうせ取り柄なんてないですよ〜」

「えぇ〜?なに急に?」


思わず自虐的になって呟くと、隣の由佳が苦笑いで首を傾げた。


「頭だって普通だし、顔だって特別美人じゃないし、運動も出来ないし……特技もないなぁって」


あからさまに拗ねるのもいい加減子供染みている気がして、私は努めて明るく言った。しかし口から出た言葉はやはり拗ねた子供そのもので自分が嫌んなる。……卑屈過ぎるでしょ、そんなセリフ。と、また自己嫌悪だ。


「サックスが吹ける」

「え?」

「吹奏楽部、だったな遠野は。あれは特技では?」


前方を歩く柳が僅かに顔だけを振り向かせて言うが、私は一瞬答えに迷う。……いや、あんなの部活でやってるだけだし……。吹けるといえば吹けるけど……。


「あんなの…下手過ぎて特技なんて言えないよ」


柳のように全国に名を轟かせていれば胸を張って特技とも言えるが、所詮私たち立海吹奏楽部は毎年県大会止まり。中学に入って始めたサックスは未だに自分の思い通りの音が鳴らせなくて、私はまだまだ悪戦苦闘してるのに。


「そうか?部活勧誘会でのソロは素晴らしいと思ったが……」


自分の腕前がどの程度かなんて、自分自身が一番よく知ってる。けして褒めらたもんじゃないって、毎日痛感してる。なのに。


「俺は楽器など一つも触った試しがなくてな、単純に凄いと思ったぞ」


柳は口元に柔らかい笑みを浮かべると、そんな事をさらりと言いやがる。く……くそぅ…!照れるじゃんそんなこと言われたら……!


「そういえば楽器なんて私も出来ないや…音楽でリコーダー吹くぐらい?」

「俺は出来るぜ!」

「へぇ〜!何?」

「カスタネット!木琴!あとは……シンバルとか!」

「ちょっと…!ブラスバンドの世界じゃ木琴もシンバルも打楽器系だってそれなりに技巧がいんだからね!?馬鹿にしたら殴るよ!?」


と、続く木村のおふざけに照れを隠すように檄を飛ばしながら、心の中ではもうちょっと真剣にサックスを頑張ってみようかなと思った。


「あの!!」


と、その時。背後から声が聞こえて振り返る。私たちの約5メートル後ろに、一人の女生徒が立っていた。


「柳くん、ちょっといいですか!?」

「………要件は?」

「あの、ここじゃ…別な場所で…」

「それは緊急を要するのか」

「え…っと」


名指しされた柳は冷静な顔で質疑応答を繰り返す。……えっと。この流れは……たぶん……。と、やや俯き加減となった女の子の表情でなんとなく察する。ってか、ここで言えとか鬼だよ柳。


「あの……新しく入ったテニス部のマネージャーさんについて、気になる事が……。柳くんに知らせた方がいいと、思って」


しかし女の子はしどろもどろになりながらも柳に促されるまま口を開いた。突き詰められて戸惑っている様子の女の子。気持ちは分かる。見えているかも分からないのに柳の閉眼は何故だか恐いうえに、余計なギャラリーが三人もいるんだから。


「分かった、聞こう。……悪いが先に行っていてくれ」


すると柳は彼女が話し出した内容を耳にようやく頷き、そう言うとジャージを入れていたバックを木村に預けると女の子と共に何処かに行った。何をどう納得したのかポイントが良く分からないが、まぁ部活内のことなら気になって当たり前か…。


「びっくりしたぁー。告白かと思った」


柳の姿が完全に消えてから、由佳が息をつきながらポロリと零す。同感だ。


「似たようなもんだろぉ?わざわざ狙ってやって来たんだから」

「ひぃ〜…勇気ある〜!」

「そうか?一部じゃ有名だぞ」

「何が?やーちゃんが?それは知ってるよ」

「じゃなくて!興味ありそうな話題持ってきゃ蓮ちゃんが話し聞いてくれるってさ、二年ん時に女子が騒いでた」

「ふーん」


木村の言葉には私も由佳も特に意見などなく適当に相槌を返した。情報好きの柳に持ってく情報を一体どうやって仕入れてんの?と疑問に思うが、ここで聞いたところで分かるはずない。

もし本当に告白だったとしたら、柳はどうしたんだろうか?と不意に頭に浮かんだが、それも結局言葉にはしないまま私は木村と由佳と共に教室へと戻った。


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