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ネコの尻尾。
【24/50】
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24.
闇に降る雨@



「古典的過ぎんでしょうよ……コレは」


なんて呟いた所で、相手には聞こえるはずもない。水気を含んで重くなった髪をかき上げると、私は苛立ちを帯びた溜息を盛大に吐いた。

つい十数分前のこと。

沈んだ気持ちを悟られてはいけないと無理やりテンションを上げながら、いつも通りにコートを抜け出していつものようにドリンク補充に向かった私は、部室棟で見知らぬ女子に声を掛けられた。

『テニス部の方ですか?』

『あ、はい』

『すみません!私バレー部のものなんですが、テニス部の備品が間違えてうちの方に届いてしまったみたいで』

『あぁー…』

『そんなに多くないので、一緒に取りに来てもらえます?』

と、そんな事を言うから、申し訳なさげに頭を下げる彼女に仕方無しに付いて行った。備品発注はゆかりちゃんと柳が受け持っていたので、私一人で運べる量なのかも、何処に届くのかもまだ知らなかった。だから部室棟を出て歩き進んで行く彼女に何の疑いも持たず、旧校舎へと足を踏み入れた時もバレー部ではそちらに備品を仕舞っているんだろうと、ただそんな風にしか思わなかった。

『この中に保管してありますから』

そう言われて手で指し示された古い倉庫。その扉を開けるのにも何の迷いもなかった。

そんな単純な自分が、馬鹿だった。

小さな窓から差し込んだ光だけが頼りの薄暗い倉庫に、一歩足を踏み入れた瞬間に背中を突き飛ばされた。床に倒れ込むのと同時に背後から水をかけられ、二度、三度…と間隔を空けずに立て続けに大きな塊となってぶつけられるそれに、相手が一人ではないことを悟る。

大量の水を浴びせられて咳き込んでいる間に扉は閉められ、ガチャリと派手な音を立てて鉄の扉に鍵が掛かったのを察した。これで、濡れ鼠さながらの忌まわしき女の封じ込みが、彼女たちにとっては完成したのだろう。扉の向こうからは微かに複数の笑い声が聞こえていた。

閉じ込められたってのは初めてだな………。

こんな事をされなければならないなんて、私はいつ恨みを買ったんだろう…。と、今までにない経験に途方にくれながら、ぐるりと周囲を見回す。長く使われていない倉庫だろうか、僅かに段ボールや机が置かれているだけで物は極端に少なく、どこもかしこも埃まみれで、突き飛ばされて倒れた際に私の全身も茶色く薄汚れた。

やたらと天井が高くて、設置された窓には手が届きそうもない。手が届いたところで細かい格子で覆われているそれは、とても人が通り抜けられるものでははない。まぁ……人を陥れるのだから、そこら辺の計算くらい彼女たちもしているだろう。ではどうするか…。

……どうしようもない。

部活の合間だったので携帯も部室に置きっ放し。完全に丸腰の私は、誰かに助けを求めることも出来ない。いつまでも戻らない私を不思議に思って、誰かが探し出してくれるのを待つしかないんだろう…。

私はそう判断すると、壁際に背を預けて座り込み、立て膝に顔を埋めた。じっとりと湿ったジャージが肌に張り付いて気持ち悪くて、掌に付着した砂埃を拭おうにも拭いきれず、そうして募っていく不快感がどんどん気持ちを昏くさせていく。どうせテニス部ファンのつまらない嫌がらせだと分かっていても、この孤独な状況が、私をもっと孤独にさせる。

静まり返る倉庫内で、ただひたすら助けを待つしかない私。じっとしていると、余計な事まで考えてしまうからイヤなのに…。独りきりでいては、本当に私はこの世界では独りなのだと、変に自虐的になってしまいそうで、私は固く目を閉じる。

不意に脳裏に浮かんだのは、あの奇妙な画像。

………異質。どんなに馴染めど、私は異質か。だから形には残らない。残してはいけない存在?

……そんなの分かってるよ。分かってるけど、じゃあ一体どうすればいいんだろう。

誰もいない薄暗い空間で、私は自分の目から流れた涙を止める事が出来なかった。


next…

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