06 B面



イヤホンから流れる歌は甘いキスの歌で、恋人ならキスしていいのかァ、と妙に納得してしまった。見つめたり、ハグをしたり。愛情表現は色々あれどキスは基本的に親密でないとできないと思う。それを彼女としたいという気持ちに間違いなど無いはずだ。

「亜呼ちゃんは、違う方がいい?」
「……ち、違わないで、いい……」

掠れた声でちいさく呟いた彼女の頬に触れると、少し震えているみたいだ。軽く唇にキスをすると、彼女の唇からは甘い桃の香りがした。
互いに絡みあった指がよりオレたちふたりの距離を縮めている。
試合で点をとった時とはまた違う、高揚感。

「もういちど、してもいい?」
「……ん…」

メガネにぶつからないように、唇を重ねる。
もう馬鹿の一つ覚えみたいに、たくさんキスをした。ついばむようなキスを、たくさん。
舌を入れたら怒っちゃうかな。あまり過激なことはまだしちゃいけない気がする。

「っ、は…」
「ごめん、嫌なら言ってね」
「……いやじゃ、ない…」

顔を赤くして、忙しなく亜呼ちゃんはメガネの位置を直したり、前髪を触ったりしている。最近気づいたことだけれど、亜呼ちゃんは照れると顔まわりを触る癖があるようだ。

「な、なんで笑うの…」
「え、笑ってた?」
「なんか私変だった…?」
「変じゃないよ」
「ほんと…?」
「うん、ほんと」

ふわふわの癖毛を撫でてまたキスをすると、亜呼ちゃんはオレの胸に顔をうずめた。

「どうしたの」
「ちょっと、休憩」

ふぅー、と長めに息を吐く亜呼ちゃんがたまらなく愛しくて、思わずぎゅう、とその体を抱きしめてしまった。
そうしないと、もうオレの気持ちの行き場がない。
こうなると単純なんだなぁ、オレって。女の子に対してこんな気持ちになる日が来るなんて。

「これから、なんて呼べばいい?」
「うん?」
「呼び方、どうしたらいい?」
「うーん、亜呼ちゃんはどうしたい?」
「………彰くん、って、呼びたい」
「いいよ」
「彰くん」

ん、と顔を上げ、しばらくオレの目を見つめ、亜呼ちゃんは目を閉じた。

「どうしたの」
「……いじわるしないで…」
「どうして欲しいか、言って」

そういうとやっぱり前髪をぐしぐしと弄り、亜呼ちゃんは小さく呟く。

「………キス、して」
「うん」

可愛いな。オレの彼女は、こんなにも可愛い。
そんなことを思いながら、オレはまた彼女にキスをした。
もうすぐ部活が始まる。それまで彼女にたくさんキスをしよう。

恋に落ちたら終わりなんて、悲しいことを言わないで

うん、オレもそう思うよ。
カセットの音源に向かって、心の中で返事をした。













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