05



「もしもし、おかあさん?うん、もう少ししたら帰る。あのね、釣ったお魚貰ったの。うん、うん…そうなの、一緒にどうかなって。いい?」

駅前の公衆電話。亜呼ちゃんがお家の人に電話をかけている。にこにこと話をしているのをみていると、どうやらOKが出たようだ。

「おまたせ。ご飯たくさん炊いて待ってるって」
「じゃあお言葉に甘えようかな」
「うん、狭い家だけど、よかったら」
「ありがとう」

帰るまでの道、亜呼ちゃんは好きな本の話や、好きなアーティストの話を少しずつしてくれた。
自分の知らない分野の話だけれど、不思議と彼女の口から紡がれる話は興味深く、もっと知りたいと思えて不思議だ。

「やだ、私ばっかり喋ってる」
「いいんだよ。もっときかせて」
「仙道くんの事、知りたいよ」
「オレ?オレはバスケと釣りが好きだよ」
「そうだね。中学でもバスケしてたんでしょ?バスケってどんなスポーツ?」

そこからのんびりオレの話。亜呼ちゃんはバスケの事をあまり知らないらしく、あんな高いところに手が届くことが凄い、と目をきらきらさせながら話を聞いてくれた。

そうこうしているうちに彼女の家に着いたが、そこからの歓迎ぶりが凄かった。

「あらぁ、大きい子ねぇ」
「お邪魔します」
「ただいま。おかあさん、この人が仙道彰くん」
「どうも…これ、よかったら」
「あらあら、悪いわね。これ一人で釣ったの?」
「ええ、まぁ」
「凄いわねぇ。おばあちゃん、お魚たくさんきたわよ!ご馳走拵えなきゃ!」

クーラーボックスを台所に運び、おばあちゃんにもご挨拶。ここでも「大きい子だねぇ」と言われてしまった。そりゃそうだ。
そしてあれよあれよという間にご馳走が出てきて、お膳の上は大宴会のようになった。
そこにお父さんも帰ってきて一家団欒。

「お父さん、仙道彰くんよ」
「お邪魔してます」

お母さんから紹介され、ぺこりと頭を下げる。
お父さんは俺を見上げ、にこりと笑った。

「随分大きい子だねぇ」
「もう、みんなそればっかり」
「まぁオレ、190センチあるから…」
「そりゃあ体を維持するのが大変だな。沢山食べていきなさい」
「ありがとうございます」

わいわいと、団欒の食事は良い。
普段の食事とはまた違った楽しさがある。
ご飯はどれを食べても美味しく、ついつい箸が止まらなくなってしまった。

「男子高校生は食べっぷりが良いね」
「美味いっす」
「こんなに美味しそうに食べてくれるなら本望ね、おばあちゃん」
「亜呼ちゃんはいい子をつかまえてきたねぇ」
「おばあちゃんってば…」

亜呼ちゃんは顔を赤くしながらきゅう、と小さくなった。

「ごちそうさまでした」
「はい、おそまつさまでした」
「凄く美味しかったです」
「仙道くんが釣ってくれたお魚が良かったのよ」
「いやぁ」
「ごちそうさま。仙道くん、私の部屋くる?」
「うん」
「亜呼、お茶入れるから持っていきなさい」
「はぁい」
「すみません、何から何まで」
「いいのよ。ゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます」


亜呼ちゃんの部屋はこじんまりしていて、女の子の部屋、といった感じだった。
壁にはさっき言っていたアーティストのポスターが貼ってあり、ぬいぐるみが少しと、沢山の本。

「ごめんね、散らかってるけど」
「ううん。女の子の部屋って初めて入るよ」
「その辺、好きに座って」

よいしょ、と腰を下ろし、少しばかり部屋を見渡すと、部屋の隅に置かれたアコギが目に入った。

「ギター、弾くの?」
「え、まぁ…お下がりだけど…」
「へぇ、聴きたいな」
「えっ…でも下手だよ」
「亜呼ちゃんの好きな曲でいいからさ…だめ?」
「う……ちょっとだけね…」

そう言って亜呼ちゃんはギターを手に取り、少しばかり弦を弄ると、小さく息を吸い込んだ。

軽快な伴奏。
知らない曲だが、どうやら洋楽のようだ。
彼女の少しハスキーな声が、とてもよく合う。
歌う時の声が、喋っている時の声と少し違う。また知らない彼女を知ることができて喜んでいる自分がいた。

「ここまでしか弾けないんだ…」
「すごいよ。素敵だった」

オレが拍手をすると、亜呼ちゃんは顔を赤くしてメガネの位置を直した。

「……最近、あまり弾いてなかったんだ…」
「でも、上手だよ」
「ありがとう。もっと頑張って練習しようかな」
「うん、またきかせてよ」
「……うん」

そう言って少し頷き、亜呼ちゃんは優しくギターを撫でた。
あぁ、もっと彼女のことを知りたい。彼女のそばにいたい。
魚住さん、オレ、やっぱり亜呼ちゃんのことが、好きみたいです。













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