04



「好きです、付き合ってください」

いくつ言われたかわからない。

「どうして何もしてくれないの?」

いくつ言われたかわからない。

「別れましょ」

いくつ言われたか分からない。

こうして色んな女の子がオレの元に来て、去っていった。
そもそもそんなに人に対して興味が無いのかもしれない。そんなに薄情な人間じゃない筈なんだけどな。でも皆、オレのマイペースには愛想が尽きてしまうようだ。
オレが人に興味を持てるのは、コートの上だけなのかもしれないな、と思っていた。


「亜呼ちゃん…あー、えっと、椥辻さん、いる?」


授業が終わり、皆がばらばらと下校の支度をしているさなか、亜呼ちゃんのクラスに顔を出す。
入口あたりでたむろしている女子に声をかけると、少し色めきだった声で「椥辻さん、呼ばれてるよ」なんて言われて目を丸くしている亜呼ちゃんが見えた。

「ま、まって…今支度が済むから…」

わたわたと鞄に教科書を詰め、亜呼ちゃんが立ち上がる。

「ゆっくりでいいよ。今日昼から、暇?」
「え…えっと、」

ちらりと亜呼ちゃんは周りを気にして、しどろもどろになってズレたメガネをなおしつつ、「あの、外で…」と小さく呟いた。
クラスの女子の目が気になるのだろうか。たしかにさっきからきゃあきゃあと聞こえてくる。
背の高いオレが目立ちすぎるのかもしれない。

「ごめんごめん。とりあえず靴箱、行こうか」
「う、うん…」

そそくさと教室を出る彼女の後を歩き、靴箱へ向かった。
別に、付き合ってるわけじゃないのになんでまぁこんなに盛り上がってくれるんだろうか。
女子って不思議だ。


「えっと、用事…?」
「あぁ、今日は練習がないからさ、釣りに行こうかと思って。一緒にどう?」
「釣り…?」
「うん、趣味なんだよね。せっかくの土曜日だし。急かな?」
「釣り…したことないから、横で見てるだけかも…」
「いいよ。横で本読んでてもいいし。来る?」
「…うん」

小さく頷いて、亜呼ちゃんはローファーに足を突っ込んだ。

「じゃあ、昼ごはん食べて、3時ぐらいに駅で」
「…わかった」


時間にルーズだとよく言われるけれど、彼女を待たせちゃいけない気持ちが先行し、帰って直ぐにカバンを放り出してオレは釣竿を持ってすぐに家を出た。

早く着きすぎただろうか、と思っていたが、亜呼ちゃんが既に駅前で待っているのが見えた。

「おまたせ」
「今、来たところ」
「行こっか」

のんびり歩いてるつもりだったけれども、彼女は少し早歩きになっている事に気付く。
なるべく彼女の歩幅にあわせて、ゆっくり歩きながら海へ向かった。

風がちょうどよく、天気も悪くない。

「まぁ、釣れるか分からないけど」
「うん」

亜呼ちゃんはとなりにちょこんと座り、本を開いた。

しばらく経って小さい魚が幾つか釣れたが、小さすぎるのでリリース。

「逃がしちゃうの?」
「おっきくなって帰ってこいよってね」

ふぅん、と呟き、亜呼ちゃんはカバンから赤い水筒を取り出した。

「紅茶、のむ?」
「ウン、ありがとう」

とぽとぽと注いでもらった紅茶は甘くて、なんだかほっとした。

「おせんべ、食べる?」
「お、いいね」
「クッキーもあるけど」
「何でも出てくるカバンだな。四次元ポケット?」
「そうだよ」

にへ、と笑いながら差し出されたおせんべいを受け取ると、なんだか胸の辺りがきゅ、とした。

「本、好きなの?」
「うん、結構すき」
「へぇ。好きなんだ」

けっこうすき。けっこうすき、かぁ。
その言葉を反芻しながら、釣竿を握り直した。
学校ではおどおどとしている彼女も、外ならストレスがないのかたどたどしくなく、わりと会話もスムーズだ。ゆったりとした彼女のペースは、ちょうどいいのかもしれない。

「おさかな、釣ったらどうするの?」
「食べるよ」
「食べるんだ」
「自分ではあんまり上手には料理できないけどね。釣れたら持って帰る?」
「いいの?」
「うん。あげるよ」
「おばあちゃんに捌き方教えてもらお」
「おばあちゃん料理上手?」
「上手だよ。食べにおいでよ」
「嬉しいな。オレ一人暮らしなんだよね」
「そうなの?」
「うん。東京の中学に居たんだけど、監督にスカウトされてきた」
「すごい」
「お、」

なんて、他愛もない話をしていたら魚がかかった。
今日は結構釣れる日かもしれない。

「大きいね」
「うん。こいつは食べよう」
「ご馳走だ」
「……今日、くる?」
「え、亜呼ちゃんち?」
「うん。嫌じゃなかったら」
「いいの?」
「あとで公衆電話みつけたら、電話する。でもうちお客さん好きだから、いいよって言うよ」
「じゃあお邪魔しようかな」
「うん」

亜呼ちゃんちに上がることになるとはなァ。
こりゃもう少し頑張って釣らないと。
でもまだ時間はあるし。

彼女の気持ちはどうだろう。
オレは今までで一番、女の子と一緒に居て心地良いなと感じている。
人に興味を持てるのは、コートの上だけだと思っていた。
あぁ、甘い紅茶が、うまい。













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