03



あぁ、なんだか彼女を泣かせてばかりだな。
昨日のことを思い出しつつ、身体をぐっと伸ばす。

「仙道どうした、上の空か?」
「えー?そう見えます?」
「締りのない顔しやがって」

ばちん、と魚住さんが俺のケツを叩いた。

たしかにちょっとぼんやりしてるかもしれない。
普段真面目に受けていない授業も、なんだか余計に右から左だったような。
昨日は見に来てくれてたみたいだけど、今日は来ないかな。
きゃあきゃあ言ってる女の子たちの中に、亜呼ちゃんの姿はなさそうだ。

「女か」
「あはは」
「はぐらかしやがって」
「魚住さん、女の子泣かせたことあります?」
「藪から棒になんだ?喧嘩売ってるか?」
「やだなぁこわい。そんなんじゃないですよ」
「お前は沢山泣かせてそうだな」
「うーん、今回はそういう感じじゃないんだよなぁ」
「ノロケやがる。ったく、アップすんぞ」
「うぃす」

どうすれば笑ってくれるだろうか。
涙を流さずに済むだろうか。
こんなにも彼女のことが気にかかるなんて。

あの時触れた傷の、ざらついた感触がまだ指先に残っている。

もう切らないで欲しい。

なんて身勝手なお願いなんだろう。
彼女が望んでそうしているのが、何故かオレはたまらなく辛い。

ドラマでしか見た事のないような出会いをしたからなのだろうか。
人が目の前で死のうとした事が、よっぽどオレにとってはショッキングなことだったのかも。
しかし彼女に対する気持ちが、オレの中ではまだわからない。
優しくしてあげたい。それは分け隔てなく彼女じゃなくてもそう思うかもしれない。
オレは彼女をどうしたいのだろう。
救ってあげたい?ただのオレのエゴで、彼女を苦しめるだけだったら?
考えが堂々巡りだ。

「コラァ!仙道!」
「あ、はーい」

とにかく今は練習だ。あまり監督を怒らせると卒倒させてしまうかも。それはいけないな。


「調子が悪そうだな。なにか悩んでるのか?」
「ええ、まぁ」

練習後、着替えていると魚住さんが声をかけてくれた。この人は本当に面倒みのいい人だなァ。

「お前でも悩み事があるんだな」
「そりゃまぁ、ありますよ」
「さっき言ってたことか?」
「え?」
「女の子を泣かせたとかなんとか」
「そうですね、なんか、自分を傷つけるのをやめて欲しいなとか思ってるんですけど、それってオレの勝手なのかなって」
「そりゃ誰だってそう思うだろう。彼女がそんなことしてたら」
「いや、彼女じゃないんですよ」
「あ?」
「告白とかしたわけでもされた訳でもないんですけど」
「恋人の話じゃないのか」
「自殺しようとしたところ止めただけなんですけど」
「じさつ」

魚住さんは口をあんぐり開けて、唖然としている。まさに文字どおりといった感じに。

「なんか、気になっちゃうんですよね、彼女のこと」
「待て待て。お前はその子をどう思ってるんだ?」
「どうって……死なないで欲しいなぁとか…手首切ったりしないで欲しいなぁとか…もっと自分を大切にして欲しいなぁって」
「それはまぁ、そうなんだが…」
「でもこれ、彼女のこと苦しめてないかなって…」
「……オレは恋愛経験はないが…彼女のこと、好きなのか?」
「好き?」
「彼女を守ってやりたいとか…もっと彼女のことを知りたいとか…あー、むず痒いな。どう思ってるんだお前は」
「うーん…」
「好意がないなら、そりゃただのお節介だ。彼女にとって迷惑かもしれん。でも寄り添ってやりたい気持ちがあるなら、話は別だろう」

お節介。確かにそうだ。
彼女をどう思ってるか?
寄り添いたい。そばに居たい。
そうかもしれない。

「彼女が苦しい思いをしてるのが、オレはたまらなく辛いんです」
「なら、そういう事なんじゃないか。お前のマイペースについてこれる子かはわからんが」
「オレいつもそれで振られてるんですよねェ」
「だろうな」
「あはは。でもオレ、彼女のこと何も知らないんですよね」
「これから知ればいいだろ」
「うーん、どうすればいいと思います?」
「知らん。釣りにでも誘え」
「釣りかァ…たしかに。魚住さん流石3年生ですね」
「学年なんぞ関係ないだろうが。ったく、お前のノロケ話には付き合ってられん」

やれやれ、と魚住さんは学ランを羽織った。

「魚住さん」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「……ふん、せいぜい彼女を死なせないようにしろ」
「はい」

釣り、か。
今度の土曜練習もないし、いっちょ誘ってみるか。













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