先生!!という大きな声と共にがらりと開けられた国語準備室の扉。

「土方君、一応お前も生徒だよね?失礼しますぐらい…」

溜息をつきながらちらりと横目で土方を見ると、ぜぇぜぇと肩で息をしながらこちらをじっと見つめていたから思わずどきりとしてしまい咄嗟に目を逸らす。

「先生…!!」

ばたばたと数mの距離をまた駆け寄った土方君は俺の着ている白衣をぎゅっと左手で握り締めた。
何だか酷く、この子が必死でそうしてるように見えたから心配になって、どうしたの?と声を掛けると、掴んでいない方の手で待って、と俺を制した。

「…ひじ」
「お年玉!!!」

息も絶え絶えの土方君が口に出した言葉は、自分が予想していたものとはかけ離れていて思わずはい?と聞き返すと再びお年玉!!と声がかかった。

「何でお年玉…」
「俺、正月に先生からお年玉貰ってねぇんだよ」

だからくれ、と頬をぷっくりと膨らませ、右手を俺の顔の前に突き出しそうせがむ土方君はまるで小さな子供のようで思わずふっ、と吹き出してしまった。

それが気に食わなかったのか、頬を膨らませたまま土方君の眉間に少し皺が寄って。
その間を指でちょこんと突くと、驚いたのか膨らませた頬の空気が口から抜けて、ふすっという少し間抜けな音が静かな準備室に響いた。

「っなにすんだよ!!」
「面白かったから。駄目だった?」
「駄目っ…じゃねぇけど、いや駄目だけど…そっ、れよりお年玉!!」

ごにょごにょと口ごもり、すぐに話を逸らした土方君の姿はやっぱり何だか幼くて微笑ましい。

「お年玉ねぇ…待ってて」

自らの鞄を引っ張り出し、中をごそごそと漁る振りをしてみると、土方君の顔が期待にぱぁあっと染まる。
こちらも何故か笑顔になってしまった。小さな子に物をあげる大人の気持ちってこんな感じなんだろうな、なんて自分には似つかわしくない事を考えた。

「土方君、手ぇもう一回出して?」
「ん。」

再び差し出された右手の掌に、ころんと置かれたモノを凝視する土方君の髪をわしゃわしゃと撫でる。
無邪気で素直なのが子供なら、捻くれてて誤魔化しが上手いのが大人ってものだろう。

「はっぴーにゅーいあー、土方君」

だから、お年玉はこれで我慢してね。
身を屈め、某然と立ち尽くすその子の頬に触れるだけのキスを残してそう言うと、彼は顔を真っ赤にして準備室から逃げ出した。




「ばっかじゃ…ばっかじゃねぇの…!!?ばか…クソ天パ…っ」
土方の手には、銀八の家のスペアキーが握られていた。











…恥ずかしい奴らめ。
私が1番恥ずかしいけど!!


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