「げっ…」
4月、進級。
そしてクラス替え。
俺の発した第一声は、決して喜ばしい結果を見たものではなかった。
むしろ良く無いものを見てしまった時の声だった。

「…さいっあく」

理由はただ一つ。
自分の名前が書かれたその少し下、1番同じクラスになりたくなかった奴の名前があったからだ。

『土方十四郎』

土方とは、学年トップを争う間柄だ。
考え方やら何やらが全て真逆。
俺は学級委員の副委員長、土方は風紀委員の副委員長だから、たまに生徒の生活態度等、生徒指導に関することを教師を含めて話し合うときがある。
その時必ずといっていいほど俺たちはぶつかりあうから、先生達もお手上げ状態だったのだ。
そういうことは廊下でも起こるものだから、学年全員が俺達が犬猿の仲である事を知っている。


ため息をつきながら、彼の名前をもう一度確認する。
他の奴と同じ大きさな筈のその5文字が、何故か他の奴等の名前よりはっきりと、太く、そして大きく書かれているように思えた。

何度見返しても変わる事はない。3年A組、5番と10番。無情にも、風になびく模造紙はそう告げていた。
出席番号が俺の2倍というのにすら腹が立った。まるで奴の方が俺より出来る奴みたいではないか。
やはり、こいつは気に食わない。
高杉が聞いたら腹を抱えて笑い出しそうな理由だけれど。

ため息をつきながらもう一度クラス名簿に目を移すと、今思い浮かべたばかりの男の名前もA組に記載されていた。
同じクラスだったようだ。
それは些か嬉しかったが(というより、土方がいるクラスに仲良いやつがいて安心した)本人に言うつもりは全くなかったけれども。

高杉と土方の出席番号は前後だった。
つまり、出席番号的に、高杉は土方の前の席になるらしい。
これから高杉の机にはいきにくくなる、と心の中で舌打ちをした。
その時。

「…げぇっ……」

思い切り顔を歪めて此方を見る土方の姿が隣にあった。

「…よぉ…、お、同じクラスだなぁ…」
「…はっ、冗談きついぜクソ天パ」
「…い、いや…まじだって…ほら、あれ…」
「はっ…!?」

目を大きく見開いた土方は、慌ててクラス名簿を確認した。
そこで見つけた自らの名前と俺の名前が同じクラスに表記されているのを見て、途端に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そして俺の方を向いた土方の目は、

ふざけんな、何でお前と。

そう訴えていた。
俺だって同じだ畜生、何でお前と。
途端に、俺達の間に不穏な空気が漂い始めた。沈黙が続き、目と目を合わせたままお互いの様子を伺う。

その状況に、何だか居た堪れなくなっていた。
それは土方も同じらしい。
しかし邪魔なプライドがお互いせめぎ合い、俺が先に目を逸らすのはこいつに負けたようで憚られる。
どちらも離れる事も、目を逸らすこともしない…、いや、出来ないまま時間が過ぎて行く。
憂鬱だ。一分が一時間。いや、それ以上に感じられる。
第一何が悲しくて犬猿の仲である俺達が同じクラスにならなきゃならない。
挙げ句の果てには何故見つめ合わなきゃならないんだろう。
周りはきゃあきゃあはしゃいだりしているのに。

丁度その時、おーいという声と共に走り寄ってくる姿を片隅に捉えた。
近藤だった。ナイスタイミングだ。
近藤と土方は仲が良いから、きっと土方を連れて行ってくれるに違いない。
まさに救世主。

「えぇ!?トシと銀時同じクラス!?いやー、すごいなぁ!学年トップを争う二人が同じクラスかぁ…」

いや、もう何でもいいからさ、連れてってくれない!?
心の中でそう叫ぶ。
しかし、俺は一つ大事な事を忘れていたのだ。

「…あっ、お妙さァァァァァァァアん!!」

…ゴリラは、お妙馬鹿だった。

「ゴリラァァァァァァァア!!ふざけんなァァァァァァァア!!」

俺の絶叫は、その場にいた全員に聞こえたらしい。
訝しげに此方を見る視線が痛かった。しかも学年全員分。
沈黙が、再び訪れた。
しかも、範囲が拡大して。

本当に居た堪れない。逃げ出したい。
逃げていいかな、いいよね。

3年の昇降口の方向に体を向けたその時。

「っぁぁああ!!?銀時と土方が同じクラスだとぉぉおっ!?」

どうやら、今までは皆自分の名前を確認するので精一杯だったらしいが(何せ俺達の学年は12クラスある)、とうとう俺と土方が同じクラスである事に気付いた奴が沈黙を破った。
よくみると、気付いた奴は桂だった。
余計な事を。

すると、途端に先程の沈黙が嘘のようにざわめき始めた。
それはそうだろう。あの犬猿の仲である俺達が同じクラスなのだから。

聞こえてくる話し声は、どう解釈しても心地の良いものではなく。
同じクラスじゃなくて良かった、という安堵の溜息と、同じクラスになってしまったという悲痛な声の2種類しかなかった。

俺だって不本意なのだ。
そんな風に罵られる筋合いはない。

「俺だって不本意だっての…」

なぁ、土方?と同意を求めようとしたが、その言葉は途中で途切れた。
俯き加減になった顔は前髪で隠されよく表情がわからなくなっていたが、そこから除く眼光の今までにない鋭さから彼の怒りの大きさが窺い知る事が出来た。
そして、あまりに強く握られた拳は小さくだが確かにふるふると震えていた。

「…坂田ァ」

一言、絶対零度の響きを纏った声。
その声は、たいして大きくはなかったけれど、周りの野次馬達を震撼させ、黙らせるには十分過ぎる響きであった。


「…今後一切、俺の半径2m以内に近づいてくるんじゃねェ」

有無を言わせず、首を横に振ったら殺されるんじゃないかと本気で錯覚した俺は、首を縦に振るより仕方がなかったのだった。




クラス替えは、最悪でした



( 最悪です )
( 希望が見えなくなりました。本当です )






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