原作 | ナノ


▼ それが恋だよ



それは、歌舞伎町大通りの真昼間。

「…す…すす、好き…だっ!」

ようやく絞り出したその声は、みっともない事この上なかったけれど。
確かに言えた胸の内に、心と体が歓喜で震え、すでに脳内ではサンバを踊り出しているような中、耳にしたのは、

「…おー、そうかそうか」

という、何とも素っ気のない、というより感情のない棒読みだった。




…えっ!?

「ちょっと待って!?」
「あ?なんだよ、俺ァ忙しいんだ。もう行くからな」
「待って待って待って全力で待って!俺今確かにお前にこ、ここ告ったよね!?」
「自分で言っといてその質問はなんだ、クソ天パ。だからテメーはいつまでたっても天パなんだよ」

はっ、と蔑むように土方は笑った。
そして周囲の視線が凄く痛い。
突き刺さるような痛みを何故だか感じるくらい土方の嘲笑と周囲の視線攻撃は凄まじい。
HPが凄い勢いで減っていく。

…しかし俺も男だ。引き下がる訳にはいかない。

そうしてなんとか、視線攻撃をHPぎりぎりで堪えた俺は、反撃を試みようと口を開いたところで土方がだいたいよォ…とつぶやいた。

待って、今は俺のターンなんですけど。何で土方のターンになってるわけ。

「おかしいだろうが、ん?何で俺なんだ馬鹿じゃねぇの?ああそうか馬鹿なのかわかった。いやそれにしたってな、テメーには志村の姉とか吉原の女とか色々居るだろうが何で俺なんだ。しかも此処どこだと思ってやがる歌舞伎町の大通りだぞ、しかも真昼間。行き交う群衆共の視線がすげぇ冷たい事にさっさと気づけよ。そんで気づいたならさっさと俺の前から失せろクソ天パ」

…KO!
というゴングが聞こえた気がした。
…そう、マシンガンのごとく吐き出された暴言はまさにボクシングの拳そのもの。
俺は確かに土方からボクシングなみのパンチが飛んで来たのを見た。
しかも気にしているところを見事に抉られた気がする。
…あ、駄目だ。勝てる気がしない。
ふらりと眩暈がして、その場にどさっと倒れこんだ。
もう疲れたぜ定春、銀さんもう眠いよ。



「じゃあ俺ァ本当に行くからな。あといつまで寝そべる気だよ、ゴミと間違われて踏まれてもしらねぇからな」
「銀さんの脆いガラスのハートが粉砕されたので動けませーん」
「なるほどわかった。じゃ、精々頑張って踏まれとけ」

それじゃあな、と片手をひらひらさせて土方は本当に歩き出した。
ちょ、あいつ薄情だな。
何で俺、あいつ好きになったんだろ馬鹿じゃねぇの!?

あぁぁあでも悔しいけどそういうとこも好きだ畜生。
諦められっか!
俺はしつこくてねちねちしてて気持ち悪いくらい一途なんだよこのヤロー!

「ひぃぃぃいじぃぃぃいかぁぁぁあたぁぁぁあ!!!」

俺は超高速で立ち上がり超高速で走って土方の背中にタックルしようと飛びかかった。

「なっ…!!?」

その時、土方が振り向いて俺を凝視する。
あ、ポカーンてしてる。
超可愛い。何こいつ可愛い。
思わず飛び掛かる時に土方をぎゅうっと抱きしめた。
瞬間、ビクンと小さく跳ね、強張った土方の肩。

そしてそのまま、重力に従い倒れこむ。
どさっと響く音。
痛い。
あ、でも土方の方が痛いかもしれない。土方が今下だから、地面と接触したときの衝撃は俺よりでかい筈だ。

「悪い悪い、だいじょーぶかー」

顔を上げ、土方を見ると痛みからか涙で目が潤んでいた。
あー、やばい。すげぇ可愛い。
大の男に何言ってるんだろって思うけどでも可愛いんだから仕方ない。

じーっと見ていると、ぱちりと目があった。
しばらく土方は目をパチパチと瞬かせ、そして。


ぼふり、と音がなったんじゃないかってくらいの勢いで赤面した。

あれ?

「み、見んじゃねぇ…!」
「うごっ!」

顔に土方の手が張り付いた。
くそ、よく見えない。
ていうかお願い見せて。

微妙に開いた手の隙間から土方をみれば、小さく震えながら目をキョロキョロしている彼の姿が。

…ねぇ、これってもしかしてさ。
脈、あるんじゃね?

…ふむ。成る程。






ぺろり。


「ふあっ!?」

途端に、俺の顔から手が外される。
相当驚いたようだ。
土方を見ると、案の定口をぱくぱくさせながらもっと顔を赤くしていた。
ま、そらそうだわな。掌舐められるなんて犬にされる以外滅多にねぇもんな。


「なっ、なななな、な、なにしやがる!く、くそ天パふざけんな、ばか!あほ!死ね!」
「やだ、まだ死なねぇ。土方可愛いからもうちょい堪能しなきゃなんねーし」
「し、るか馬鹿!第一ここ大通りだってさっきも言ったろ!?皆見てんだろが!!」
「関係ねぇな」

ぎゅうー、と土方を抱き締めてやる。
さっき俺のハートを粉砕した報いだ。
いっぱい恥ずかしがっちまえ。

「た、の…!頼む離してくれお願いだから!万事屋、お願い!」
「いーやーでーすぅー」
「よろず、やっ!」

土方が俺の肩を押した。
しかしそれは力が入ってなく、弱々しいもの。
俺には肩に手を添えられたくらいにしか感じられない。
あー、これやっぱり脈あるな。

「土方さー、俺の事好きだろ」
「はっ!?」
「だってよォ…」

普通、まじ嫌いな奴にこんなことされたら本気で抵抗するだろ。

そういうと、土方は目を見開き、そして。

「す、きじゃねぇ…好きじゃねぇ、嫌いだ馬鹿、嫌い…、嫌いなのに…嫌いなのにこんな…!」
「ひじか、」
「何でこんな、嬉しくて苦しいんだよ、ふざけんな…!」

あったかくて、苦しい。


そして、肩に添えられた手を俺の背中に回して、控えめにきゅっと抱き締め返してきたのである。



それがだと彼はまだ気付かない


( それが肯定のサインだと気付かない分 )

( 俺の想い人はたちが悪い )




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