なんかもうわけわかんねー。5月なのにこんなに暑いし何でか身体もめちゃくちゃ熱いのとか、どんな音楽を聴いててもその歌詞に当てはまるのが全部俺に聴こえてしまうのとか。今俺は心の中を道行く人に曝け出しているような、そんな気分になっている昼下がり。

木々が春風にそよそよと靡いて、葉の光沢が日光できらきらと輝いた。鳥たちは気持ち良さそうに空を羽ばたいていて、何だか分からないけれどそれを羨ましいと思った。今俺は気持ちが悪いわけではないけれど、決して気持ち良くはない。というか、ムシャクシャする。また瞼の裏で彼女が笑う。

「君のことが大好きなんです!」

耳元で歌うボーカルは最後にそう言って静かに消えていった。「ンなの、」思いっきり言えたなら苦労はしないんだろうけれど。綺麗事を言っていると毒づくつもりは決してない。そんな単純で真っ直ぐなものが凄く綺麗な事に思えるから、俺はそんな単純な事も出来ないのかって自分自身が嫌になる。思わず漏れる舌打ち。

長い階段が俺の未熟さを責めているような気がした。ナイーブになっている時はとことん被害妄想。悪い癖。やっと最後の段に足を乗せた瞬間、強い風が吹いた。

嘘だと思った。信じられなかった。どくどくと心臓が鳴りだした。やっぱりわけがわからない。視線の先に、いまの今まで瞼の裏で微笑んでいた彼女の後ろ姿。喉の奥からぐぐっと言葉が出てきそうになって、それを飲み込んだ。早く出せ、早く出せ。言葉たちはそう言っている。

もう限界なのかもしれない。

「、榛名?」

恋は駆け引きだとか、頭を使えだとか言ったのはどこのどいつだ。盲目になってる中駆け引きするにも脳が動いてくれるわけがないだろ。「おう、」今自分がどういう顔をしているかもわからないし、どういう声で言ったかもわからない。

「…なんて言えばいーんだ」
「え?」
「あーちょっと待って」
「、うん?」


最終的に伝えたいのは本当にシンプルなこと。だけど、どうして。こんなに近くに居るのに、その一言を言ってしまえばいいのに、こんなにも重くて、それはどんな難問よりも難しい課題。

ただの階段みたいに一段が近くなくて、もっとずっと遠くて高い。ジャンプをすれば届くかもしれないけど、臆病になってしまえば届かない距離。そして今、とっても臆病な自分。

「うん、」

だけど今、彼女が目の前に居て、俺だけの話を聞いてくれていて、ここで伝えなきゃこの先ずっと伝えられない気がして。

「わけわかんねーぐらい、お前ンこと好きになっちゃったっぽい」

ずっとずっと言いたかったこと。

俺の中で今日は猛暑日だ。死人が出るくらい暑い。サウナに入ってるかのように身体中が火照って、だから今日みたいな風が強い日はもしかしたら俺にとって都合が良かったかもしれない。なかなか冷めてくれないぐらい身体が熱いけれど。

風が吹く音がして、心臓がどくどく言ってて、空が凄く綺麗だ。彼女の返答もまだなのに、俺は凄く清々しい気持ちになっていた。「あのさ、」頭上から彼女の声。

「わけわかんねーのはこっちですよ」
「へぇ?」

電車待ってたらいきなり榛名が現れて、いきなり告白されて、榛名の中ではいろいろ駆け引きがあったかもしれないけど。で、言い終わったら真っ赤な顔でしゃがんで顔埋めるし。わたしがいじめてるみたいじゃない?

告白というのは客観的に見ると凄く淡々とした作業らしい。俺のどきどきとか真っ赤になった顔とかほんと恥ずかしい。ぱっと顔をあげると彼女は思いの外はにかんでいて、そんな彼女の姿を見て思わず彼女の手を握っていた。見たことない表情、やっぱり誰にも渡したくなくて。

「ねえどうしよう、すごく嬉しい」

しゃがんだ彼女の目にはうっすら涙がたまっていて、思わず見惚れてしまった。触れたくなる、ものすごく。

「わたし、榛名と一緒に居たいよ」

心が走り出したあの日は、いつゴールするかなんてわからず、今日までずっと息を切らして走り続けていた。俺よりも長く彼女を好いていたやつは他にも居たかもしれない。だけど俺の中では物凄く長い道のりで、走り続けてやっと見えた終着地は天国みたいにふわふわとした幸せな場所だった。

「わっけわかんねー、ホントに。」

これってマジなの?嘘みてー。言うと、照れたように笑う彼女が俺の頬に触れて、ふんわりと春の匂いが薫った。ぎゅって頬を抓られて思わず小さく悲鳴をあげる。

「夢じゃない、」

抓ったあと、彼女は指先で頬を優しく撫でたから、なんでそんなことするんだとますます意味がわからなくなった。抓られた頬は全然痛くなかったから、もしかしたら夢かもしれない。それよりも、俺はキスされるのかとどきどきしたんだけど。

ぽかぽかとした春の陽気が俺たちに纏っているかのように、すごく気持ちが良かった。気づけば俺は彼女の手を引いて走り出していて、あの青い空の下にいた。鳥が気持ちよさそうに空を飛んでいる。葉が気持ちよさそうに日を浴びて輝いている。右の手にある小さな温もりがこんなにも愛おしくて、わけがわからないくらい嬉しくて、早く抱きしめてしまいたいと思った。









by 希



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