些細なことで嬉しくなったり

悲しくなったり

振り向いてもらえるように頑張ったり

だから、片想いが一番楽しい


誰かが言ってた。
片想いが一番楽しい?それは何の冗談ですか。楽しいってどこらへんが?

片想いなんて、苦しいばかりよ





榛名の自主練に付き添いトレーニングルームの壁に寄り掛かりながら、トレーニング真っ最中の榛名を見つめる。

滴る汗とか、無駄な筋肉のない引き締まった上半身とか、真剣な眼差しとか、ボーッとしながらも一つ一つのパーツを観察してしまう。

そして思うのだ。かっこいい、と。


「榛名ってどんな子が好きなの?」

「巨乳」

「公式設定はいらない」

「こ?え?」

「ううん、何でもない」

「変なやつ」


自分の胸をみて溜め息一つ。

…いやいやいや、胸は関係ない。そりゃ宮下先輩みたいにあったら…いやいやいや、だから胸は関係ないんだってば!

そんなことを考えていると肩をポンッとされた。誰にってそれはもちろんトレーニングにキリがついたらしい榛名くんにです。


「なに」

「まぁ、その」

「ん?」

「ドンマイ」

「…余計なお世話です」


哀れむような顔で私を見ないで。あぁ、でもなんでだろう。そんな表情もかっこよく見えちゃう。恋は盲目か。

本当に、全く…、


「ずるいなぁ」

「なにが」

「秘密」

「気になるだろ」

「それでも秘密」


気になると言いつつも榛名は私から離れ、次のトレーニングを開始する。


「まだ終わらないのー?」

「もーちょい」

「はーい」


時々思うことがある。
何故私は彼の自主練に付き添っているのか、と。
私は好きな人といれるこの時間をいつも嬉しく思っているけど、相手はどう思っているんだろう。


(付き合ってるわけでもないのにって迷惑がられてたりするのかな)


うーん、と考えているといつの間にか自主練を終えシャワーも浴び終えた榛名が横からにょきっと出てきた。


「にゃっ!」

「な、なんだよ!」

「横から来たらびっくりするでしょ!」

「何回呼んでも気付かないお前が悪い!」

「うー」

「ほら、かえっぞ」

「待ってた私に対するお礼は?」

「アイスでいいだろ」

「はーい」







彼は自転車をひき、私は歩くのがいつもの帰宅スタイルだ。


「ねぇー」

「あ?」

「いつも思ってたんだけど、私が待ってるの迷惑じゃない?」

「………」

「いや、なんかさ…付き合ってもないのにって思って…ほら、榛名にも好きな人はいるだろうし…」


榛名の沈黙が痛かった。
自分から切り出した話題なのに目頭が熱くなってきた。涙を流さぬように早口になり言葉数が増える。


「あのよ」

「ん?」

「俺、気になるんだ」

「うん…」

「お前が」

「う、ん!?」


下を見ていた顔を勢いよく上げ榛名を見る。彼の顔は赤い。


「ちょ、え?な、なんだって?」

「一回で理解しろよ!」

「だ、だって!え?うそ!?」

「普通気づくだろ。こんなに毎日一緒に帰ってるわけだし」

「でも、私巨乳じゃないし」

「それは関係ねぇ!」

「………」

「やっぱ訂正」

「最低」


ジト目で見れば、向こうもジト目で見てきた。


「改めて言う」

「………」

「お前が好きだ」

「うん」

「あー、返事は?」

「私も好き」

「おう」


それぞれ歩き出す。右手が暖かい。


「私分かりやすかった?」

「まぁ、な」

「榛名は全然分からなかったなぁ」

「お前は鈍感すぎる」

「そうなのかな」


片想いが一番楽しいと言った誰かに言いたい

両想いも楽しいですよ!




(そういえばさ)
(うん)
(俺、今日誕生日)
(…えぇー!?)









by 希



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